Neetel Inside ニートノベル
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 お気に入りのぬいぐるみが兄の乱暴によって壊されてしまった8歳娘。「また同じ奴買ってあげるから」と慰めても大泣き状態で話にならない。すると夫が解体予定だった段ボール箱を持ち出してきて言った。
「ぬいぐるみ病院を用意したよ」
「ぬいぐるみ病院?」
「この中に壊れちゃったぬいぐるみさんを入れるんだ。神様に一生懸命お願いすれば直してくれるんだよ」
「それホント?」
 いかにも子供騙しな内容だったが、娘はあっさり泣き止んだ。
「ホントだとも。ただちゃんと神様に伝わるように、毎日毎日一生懸命お祈りする。それから、神様はいい子にしている子から順番に直してくれるから、いい子にしてないと中々順番が回ってこないよ?」
「分かった。いい子にする」
 大人の私が傍から見ているだけでもうっかり信じ込んでしまいそうなほど迫真の演技。娘は夫の口八丁をすっかり信じ込んでしまった。
「どうするの? 直すの?」
 夫も私も裁縫は苦手だ。私は中学の時に家庭科が2だったことがある。
「新しいの買えばいいじゃない。こっそり入れ替えれば大丈夫だよ」
「でもそれって……」
「汚れとかを同じ場所につけておくから。あの子には悪いけど、僕らにはどうしようもないからね」
 夫は牛乳パックをはさみで切り開く娘を見ながら言った。

 1週間後、新しいぬいぐるみを手にした私は例の『ぬいぐるみ病院』のあるはずの娘の部屋の中にいた。『はず』というのは、散らかり過ぎていてどこにあるのか分からないからだ。
「全く、どうしてこんなにだらしないのかしら……早く入れ替えないと……」
 うっかり掃除を始めてしまった私は、背後から来る娘の姿に気付かなかった。
「ママどうしたの?」
 しまった。入れ替えて素早く立ち去る予定だったのに見つかってしまった。これでは言い訳が効かない……。頭が真っ白になる私をよそに、娘は言った。
「あ、新しいぬいぐるみ買ってくれたの? あの子の妹だね!」
 あの子に見せよう、と言って『病院』の箱を取り出す娘。中から出てきたぬいぐるみを見て私は呆然とした。引き裂かれた背中は縫合され、ぬいぐるみは元の姿に戻っていた。
 どうして? まさか本当に神様が? そんな馬鹿な……。
 立ち尽す私の後ろに、いつのまにか息子がいて言った。
「不器用な両親を持つと苦労するよ」

       

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