Neetel Inside ニートノベル
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「ミーンミーンミーンミーンミーン……」
「……」
「ミーンミーンミーン……」
「……」
 部屋中に響く『蝉の声』を流石に無視しきれず、俺は読んでいたマンガから顔を上げて蝉山の顔を見た。
「……ミーン」
「……」
「何だよその目は」
「暑い」
「んなこと分かっとるわ! 俺だって暑いわ!」
 だったら人んちでセミの鳴き真似なんかしないで欲しいんだが。体感温度が3℃は上がった気がする。蝉山は俺の冷ややかな視線をさらりと交わすと、フローリングにゴロンと寝そべった。そのままゴロゴロと転がりながら足を子供のようにバタバタさせる。
「暑いよ〜〜クーラーつけてよ〜〜」
「そんな贅沢品はこの部屋にはない」
「冷たいこと言うなよ〜〜」
 蝉山が次々と繰り出す暑苦しい動作のお蔭で、ただでさえ暑いこの部屋の温度が更に上がっていくような気がしてならない。窓は開けているのだが、いかんせん外は風が全く吹いていない。最強に設定した扇風機先輩も、こうもどこもかしこも暑くては効果も半減だ。逃げ場がない。
「俺が冷たくすることでお前は涼しくなってるだろ。むしろ感謝して欲しいんだが」
「お、なるほど。そういうことだったのか。気が効くなぁ……これがクーデレって奴か」
 蝉山は一人で納得して何度も頷いている。頭が悪過ぎて皮肉が通じないのだ。クソ、その思考回路が気持ちわるい。なんとかして早く駆除したい。
「大体お前、暑いなら早く帰れよ。お前の部屋クーラーあるじゃん」
 前時代的なうちの母上とは違い、コイツの家は全部屋クーラー完備になっている。文句を言うなら帰って自分の部屋でゴロゴロすればいいのだ。この金持ちのボンボン息子が、クソ羨ましい。
「えー、うん、まあそうだけど〜〜」
 蝉山のうっとおしい喋り方にイラッとして、俺の体感温度がまた上がった。いや、本当に体感温度だろうか。何だか、本当に室内の気温がさっきから上がっているような気がするのだが。
 俺の気付きを見越したかのように蝉山は言った。
「放射冷却って知ってる?」
「なんだ、薮から棒に」
「熱量を持っている物体は、エネルギーを電磁波などの形で低温側に放射することで温度を下げる」
 蝉山は厭らしく笑った。
「まだ分からないのか! 俺のウザい行動波を常に冷静なお前に照射することで俺の体温はグングン下がっ」
「氏ね」
 俺は蝉山の自慢げな顔を掴んで張り倒した。真面目に聞いて損した。アイスでも食べよ。

       

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