Neetel Inside ニートノベル
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 割れそうな頭痛で目が覚めた。目の前がぐるぐるする。典型的二日酔いの症状だ。
 吐き気の波をこらえつつ、ゆっくりと蒲団から起き上がる。枕元を振り返るとミネラルウォーターの新品のボトルがあったので、手に取って飲む。生温い液体が舌の上から喉へと流れ込み、少しの清涼感が意識を覚醒させた。どうやら昨日の誕生日パーティーで激しくやらかしたらしい。ミネラルウォーターはアイツらが俺を運ぶついでに置いていってくれたものと見える。
「こんなに頭痛いの学生以来だ……」
 ぼやきながらもう一度水を飲む。ふと、昨日貰ったプレゼントのことを思い出した。部屋の中を見渡してみると、コーヒーテーブルの上に纏めてラッピングされた箱や袋が置いてあった。
「アイツらホントいい奴だな。最悪の目覚めだけど最高の目覚めだ」
 一人暮らしですっかし身についた独り言をつぶやきながらプレゼントを物色する。小物とか筆記用具とかハンカチとか、大抵はお金の掛かっていないちょっとしたものだ。その中に一つ、異彩を放つものを発見して手が止まった。それは見る限り即席麺の容器の形をしていたが、手に取ってよく眺めると表面の文字がところどころ違っていた。
「インスタント・ディ……貴方の理想の一日を体験出来ます? ジョークグッズか」
 こういうのは学生時代に卒業したと思ったんだがな……と思いながら説明書きを詳読する。やり方は普通のカップラーメンと同じで、お湯を入れて3分待つだけらしい。もっとも、お湯を入れると何が起きるのかについては何も書かれていなかった。表面をくまなく調べて見たものの、ただ『理想の一日が目の前に現れる』としか書かれていない。
 少し興味が湧いたので、試してみることにした。台所まで行って、ポットから湯を注ごうとして気付いた。
「あれ? これ開いてんじゃん……」
 封されているはずのフタが剥がれていた。中は空っぽで、封入されていたものの残滓は欠片もない。
「なんだこれ? 理想の一日は貴方の心の中にあります、みたいな奴か? くだらねえ」
 俺はすっかり拍子抜けしてしまった。他のプレゼントで口直しでもしよう。そう思って寝室まで戻る。ところがコーヒーテーブルにあったはずのプレゼントの山がどこにもない。あるのはミネラルウォーターのボトルだけだ。
 インスタント・ディの空容器を片手に、俺はただ寝室の前に立ち尽すしかなかった。

       

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