Neetel Inside ニートノベル
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 帰ってきて冷蔵庫の扉を開け放つと、ツーンと酸っぱい臭いが漂ってきた。楽しみにしていた冷凍庫のハーゲンダッツ達は、見るも無惨な姿となっていた。
 哀しみにくれながら、原因は恐らく停電だろう、と俺は見当をつけた。多分アパートの設備点検かなにかで送電を一時停止したに違いない。普通そういう時は事前に通達があるものだが、ここの大家はずぼらな人間なので、忘れていたとしても不思議ではない。
 哀しみの衝撃が過ぎ去って原因の見当がつくと、今度は怒りが湧き上がってきた。食べ物の恨み、晴らさでおくべきか。そんなことを考えながら、気がつけば俺は大家の部屋の前までやってきていた。
 インターホンを押すと、中から「はーい」と答えがあった。時を置かずして扉が開く。
「どうかしましたー?」
 先ほど答えた声の主は、そう言うと首を傾げた。若い女だ。
「あの、大家さんいます?」
「え、大家は私ですけど」
「は? いや、大家さんって、ここに住んでるおじいさんの……」
「祖父のことですか? 祖父は昨年亡くなりまして……」
 話が噛み合わない。あのじいさんが去年死んだ? 昨日元気に道端でナンパしてたけど。困惑していると彼女が言った。
「もしかして、二階の奥の部屋の方ですか?」
「はい、そうですけど」
「ホントですか!? 良かった……無事だったんですね……!」
 彼女は突然そう言うと俺の手を握ってブンブン振り回した。俺には訳が分からない。
「何の話をしてるんですか?」
「2年前、ここで大きな時元事故があったんです!」
 俺が問うと、彼女はそんなことを言った。
「貴方が巻き込まれて、それであの奥部屋をどうするか問題になったんですよ? でも祖父が、『時元事故なら本人は無事だろうから、いつかあの部屋に帰ってくる。それまで片付けずにおいておいてやろう』って……」
 話を聞いているうちになんとなく合点がいった。ここは2年後の未来だったのだ。俺はなんらかのタイムスリップ事故に巻き込まれたらしい。
「もしそれが本当なのだったら……」
「なんです?」
「それならそれで、部屋の中は整理しておいて欲しかった。特に冷蔵庫の中身は……」
「ああ……」
 彼女は少し困ったように笑うと言った。
「食べ物の恨みは恐ろしいですからね」

       

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