Neetel Inside ニートノベル
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日替わり小説
7/7〜7/13

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 台風の影響で予定していた飛行機が欠航と決まったのは、出発カウンターでご飯を食べていた時だった。折角取った有休だったが、自宅で寝て過ごすことになりそうだ。向こうの天気が悪いのは分かっていたし、出発が見合わせで大幅に遅れていたからある程度は覚悟していた。しかし、実際に乗れないとなるとやはり鬱屈した気分になる。人の想いや技がいかに凄くとも、大自然の猛威には勝てないのだということを改めて思い知る。
 空港から外に出ると、空は薄暗い雲に覆われていた。まるで私の気分におあつらえ向きの天気である。見上げていると、雨がポツポツと顔に当たり、雫が頬から首筋を伝っていく。
 雨のお蔭で会えないなんて、まるで七夕の二人みたいだな、と思った。
 自分やアイツを織姫や彦星に例えられるほどロマンチストじゃない。私と似たような思いをしている人だって沢山いることだろう。でも、だからこそ、私たち人間よりもずっと大きな存在である彼らには、銀河の辺境にある小さな惑星の一部地域の天候ごときに逢瀬を左右されて欲しくはなかった。七夕に雨が降ったら二人は会えないなんて意地悪なことを決めたのはいったい誰なんだろう。別に雨が降ったぐらいで恋人に会いたい気持ちは冷めたりはしないのに。泳いでだって、飛んでだって、会いに行きたいのに。
 気付けば雨は本降りになり、身体がじっとりと濡れそぼっていた。顔もすっかりぐしゃぐしゃだ。私がしゃくり上げると、その勢いで雫が口に滑り込む。しょっぱい。泣いてなんかない。これは、雨だ。
 私は手で顔を拭うと、雨傘を買いに売店へと駆け出そうとした。「そうとした」というのは、実際には出来ず、腕を後ろに引っ張られて転ぶことになったからである。
 腕を掴まれたまま地面から引き上げられる。ソイツの顔は笑ったような困ったような感じに見えた。
「なんで……」
「それはこっちのセリフや」
 ソイツは片手に抱えた鍋を見せて言った。
「人が折角雨を頭の上に降らして気分出してやっとるのになんで突っ込んでくれんのや!」
 私はハッとして辺りを見渡した。
 雨は、降っていなかった。

       

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