Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 実験結果がおかしかったのでボス(先生)に相談しに行ってみると、ほとんど一瞥もせずに「ああ、やり直し」と言われた。
「実験結果がおかしくなったんでしょ。横着してマスクや手袋なしで実験でもしたんじゃないの?」
「え、すごい。どうして分かったんですか」
「そりゃサンプルから圧倒的コンタみを感じるからね。これだけの量が混じってればもう部屋にサンプル持ち込まれただけでも分かる」
 ボスは自信たっぷりだけど、コンタみってなんだろう。人間の感知出来る成分なんだろうか。
「もっかい、今度はシャーレちゃんと洗って。それから横着しないでマスクや手袋はすること」
「はい。ありがとうございました」
「これぐらいは自分でも分かるようになってもらわないと困るなー」
 後ろからキツいお言葉を追加で頂きながら教員室の扉を閉じる。去りがけのイヤミがなければいい指導教員なんだけどなぁ。

 学生室に戻るとフェローの先輩が来ていた。いつものオリピン弁当をパクついてる。
「どうしたのその顔? ああ、サンプル先生に見せにいったんだ。どうだった?」
「いやあ、怒られちゃいました。こんな出来損ない見せに来るなって……」
「どれどれ……ああ、こりゃ確かに酷い。髪の毛混じってるよ」
 先輩は私のサンプルを覗いて軽く顔をしかめた。
「俺もちゃんと指導してあげれば良かったよ。今度サンプル取る時は居たら呼んでよ」
「分かりました。でも凄いですよね。先生なんか見もしないでコンタミだらけだって一瞬で看破してましたよ」
「ああ、なんでもコンタミの濃度が直感的に分かるらしいよ。第六感みたいなもので、まあ信頼性はないんだけど、不思議と当たるんだよね……」
 以前の先輩の研究で前例のないデータが出て喧喧諤諤の議論になった時は、「わずかながらコンタみを感じる」と主張したボスが当時の教授と鋭く対立したらしい。最終的に意図的にコンタミネーションを入れたサンプルによる対照実験が行われ、ボスの意見が正しかったと証明されたのだそうだ。
「便利そう……経験を積めば分かるもんなんですかね」
「さてねえ……」
 先輩はそう言うと、メインのチキン南蛮に箸をつけた。
「おっふ、埃くせえ!」
 咳込む先輩に、思わず私は聞いた。
「コンタみ感じました?」
「感じた感じた、圧倒的コンタみだわこれ。食えば分かる」
 我々は声を揃えて笑った。

       

表紙
Tweet

Neetsha