Neetel Inside ニートノベル
表紙

日替わり小説
7/21〜7/27

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 僕は蒲団に潜り込んでジッとしていた。遠く洗面所からは、断続的に細かな水のしぶきが床を打つ音、そして時折洗面器やプラスチックの椅子が床に当たって反響する音が聞こえてくる。
 誰かがシャワーを浴びている。それは間違いない。しかし、その浴びるべき唯一の人間はここで蒲団にくるまって寝転んでいる。僕は一人暮らしだし、残念ながら泊まりに来るような彼女も友人も当てがない。
 幽霊の類か。しかし僕には霊感がない。少なくとも産まれてこのかた変な人影を見たこともないし、金縛りや幻聴の類いも全く経験したことはない。
 きっと鍵を掛け忘れてて、それで隣のOLとかが部屋を間違えてシャワーを浴びているだけだ。玄関とかシャンプーの種類とか、泥酔してて気付かなかったのだろう。うん、きっとそうだ。

 意を決して蒲団から這い出した。シャワーを浴びているのがOLのお姉ちゃんか、はたまた図太いこそ泥かは分からないが、確かなことは僕の部屋に僕の許可なく何者かが侵入しているということだ。基本的には穏便にお話しして帰っていただこう。音を立てないように静かに洗面所まで足を忍ばせる。
 ユニットバスはイヤだと不動産屋に強く希望して手に入れた風呂場のドアは、当然ながら摺りガラスとなっていて中はぼんやりとしか見えない。しかし止まらないシャワーの音、それにうっすらと見える肌色の影が、中に人がいることを示している。
 逡巡した結果、取りあえず普通に声をかけることにした。もしOLが本当に部屋を間違えて入ってきてるのなら、突然ドアを開けるのは逆効果だろう。通報されても文句は言えない。
「あのー、すいません」
 シャワーの音を除いて、沈黙。
「あ、あのー、すいません。僕怪しい者じゃなくて、ここの家主なんですけども」
 以前として沈黙、そしてシャワーの音。
 ふと、人影が全く動かないことに気付いた。まさか中で意識を失っているのか。それとも強盗が中で襲ってやろうと待ち構えているのか。前者の可能性を信じて恐怖を押し殺し、ドアを開け放った。
 中には誰もいなかった。いや、正確にはいた。人間ではなくて人形が。
 風呂場の中でシャワーを浴びていたのは僕が日々お世話になっている空気嫁、ジェシーだったのである。僕はホッと溜息をついた。
「なんだよ……おどかすなよジェシー」
 全く人騒がせな奴だ。まあでも、妖怪でも強盗でもなくて助かった。

       

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