Neetel Inside ニートノベル
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「もー、っかしーな」
 その少年はタブレットを片手に、頭をかきながらぼやいた。
「どうしたの?」
「いや、さっきから全然モンスター出てこないんだよね。バグかな?」
 少年の言葉に、周りからは次々と反発の声が上がった。
「俺はさっきゲットしたぞ」
「僕もさっき見たよ」
「私も今遭遇したとこ」
「なんだよそれ! 出会えてないの俺だけかよ。はぁーなんなのそれ」
 少年は一頻り毒づくとタブレットを放り投げてごろりとベンチに横たわった。タブレット端末はベンチの上に放られてカラカラと乾いた音を立てる。
 今日は彼の待ちに待ったゲームのサービス開始日である。ところが肝心の彼のゲーム画面にはちっともモンスターが現れないのだ。他の皆はもうとっくに捕まえたようなモンスターが彼のところにはやってこない。少年は焦りを感じていた。
「なあ、俺何か変なことしたかな? 俺だけ見つからないのおかしくない?」
 彼に話しかけられた隣の少年が彼の端末の画面を見て一言呟いた。
「何々? あー分かった、心の目で見てないんでしょ」
「心の目?」
「そう。モンスターは心の目で見ないと見つからないんだよ」
 突然訳の分からない話を始めた友人を彼はポカンとして見つめた。
「そんなのゲームに関係あるわけないだろ……」
「もー、分かってないな。ほらスマホ貸して?」
「い、いやだ。こっち来るな。お前なんか、変だ」
 彼は友人の手を交わすとベンチから立ち上がり、素早く距離を取った。
「変なのはそっちじゃん。はあ、仕方がないな。皆、アイツちょっと捕まえて」
「おい! 離せよ」
 友人が周囲に合図すると、周りの少年たちが一斉に彼に向かって手を伸ばしてくる。彼はゾッとした。何か、何かおかしなことが起こっている。逃げなくては。しかし必死の抵抗も虚しく、彼はあっさりと皆に拘束された。友人は彼の手からタブレットを掴み取ると、悠々とそれを持ち上げていった。
「手荒な真似してごめんね。だけどこうでもしないと、君心の目使えないでしょ」
「うるせえ! 俺に心の目とかいう宗教くさいものはいらないんだよ!」
 少年が吠えると、友人は不思議そうに首を傾げた。
「何言ってるの? まあいいや、はい」
 友人は何か操作をしてからタブレットを少年につき返した。少年が画面を覗くと……そこには先ほどまではいなかったモンスターたちがうじゃうじゃいた。
「心の目って機能がオフになってたから、オンにしただけだよ?」

       

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