Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 テレビには国会の質疑応答の中継が映されている。飲食店のテレビなのに地味なことだが、この店ではいつものことだ。店主を始め、この店の常連はほとんど政治・政党オタクだから、これが一番の酒のつまみになる。
「しかしまあ、なんだってこんなことになっちまうかね?」
 常連の一人が中継を見ながら溜息混じりに呟いた。目線の先はテレビの国会中継だ。
「さてねえ。まあいいじゃん、傍から見てるぶんには面白いし」
「ああ、確かに見てる分には面白いよ。だけどさあ」
 昼から飲んでいる徳利の首を持ってぶらぶらと振りながら常連はくだを巻く。
「議員の先生方は何も思わんのかねえ」
「さてねえ」
 店主は同じ言葉を繰り返した。いくら政治オタクとはいえ、議員の頭の中まで分かるわけではない。
 店主の視線の先、座敷席の奥の壁には政党ポスターが貼ってあった。今質問に立っている議員の所属している党のポスターだ。別に店主が党員だったり支持者だったりというわけではなく、隣には現在の政権与党や新しく合併して出来た新党まで幅広い。
『我が党は政権交代前から一貫してこの政策を批判し続けてきました! 政権与党の時代には官僚に迎合しておきながら野党になった途端、自分たちの過去の行いを無かったことにする政党が信じられますか? 確かな野党である我が党に清き一票を!!』
 店主はもう一度テレビを見た。議員が総理大臣に詰め寄っている。
『この法案は共産主義と一緒ですよ、共産主義! そんな時代遅れで人権抑圧の象徴のような政策を、何故よりにもよって我が国の時の政府が行っているのか、私には全く理解出来ません。きっちり弁明していただけますか総理』
『首藤相博君』
『えーご存知かとは思いますが、我が国は民主主義と自由主義を主体としたれきとした資本主義国家であります。このような質問を、よりにもよって党名に共産主義を掲げる政党の議員の方から受けるのは真に以外ではありますが……』
『そんなことは些細なことでしょう』
 首相の発言を議員は慌てて遮った。議長が制止しようとするが御構いなしに吠えまくる。
『我が党の掲げる民主的共産主義と貴方たちの推し進める悪しき共産主義は全くの別物だ! この極左的冒険主義者め!』
「やっぱりいつ見ても飽きんな」
 暴れる議員が取り押さえられるのを見ながら店主が呟いた。
「うむ。中身は昔と全然変わってないみたいだな」
 常連がそう返して、酒をちびりと飲んだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha