Neetel Inside ニートノベル
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「ねえお父さん、まだなのー?」
「ぼくお腹すいたよー」
 子供たちの文句を聞き流しながら私は河原を見渡した。この川はゴツゴツした岩場が多く、中々良いロケーションが少ない。景色は最高だし、水浴びする分には問題ないんだけどな。私が困っていると、妻が声を上げた。
「あそこなんかいいじゃない?」
 それは、いわゆる川の中州だった。この川の中州とは思えないほど平らに慣らされており、ゴツゴツした石も全て取り除かれているように見える。まるで誰かが整地したかのようだった。
「中州か……」
 『川の増水、中州で取り残された家族』というニュースが頭を過る。しかし、他に良さそうな場所もない。
「仕方がないか。パッと焼いてパッと食おう」

 悪い予想ってのは当たるものだ。先ほどまでせせらぎだった川の流れはごうごうとうねりを上げ、別の川のようになって河岸を侵食する。中州の中央で途方に暮れる私に子供たち二人と妻が心配そうに縋りつく。
「二人ともごめんね、お母さんが馬鹿なことを言ったせいで……」
「最終的に決めたのはお父さんだ、お母さんは悪くないさ。大丈夫、まだここが全部水につかるまでは大分ある」
 根拠はない。三人を元気つけるためのハッタリだ。私は半分諦めていた。私はどうなってもいい、けれど、子供たちだけは助けなければ。
 緊張と恐怖で喉が乾く。水のボトルを取ろうとした手が震える。ボトルが倒れ、溢れた水が地面を濡らしていく。

 その時、ぐらり、と地面が揺れた。
 最初は地震かと思ったが、すぐに違うと気付いた。何故なら、地面は揺れるだけでなく持ち上がったからである。あっという間に私たち一家は、中州ごと10mほど頭上に持ち上がっていた。あれほど眼前に迫っていた急流が、遥か眼下に見える。その時、中州が喋った。
「おんしら、ワシの頭の上で肉を焼いて食うとは、豪気な奴らじゃのう」
 私たちの誰も、あまりの事に声も出なかった。
「その豪気に免じて、おんしらを助けちゃろう」
 『中州』はそう言うと、川をざぶざぶと渡り、岸へと横付けし、私たちを下ろしてくれた。
「これに懲りたらもう、変なところで肉を焼くな。あと、水、旨かったわ」
 巨大な生物はそう言うと、川をざぶざぶと泳ぎ昇っていく。その後ろ姿を見送りながら、娘が叫んだ。
「ありがとう、おっきなハゲのおじさん!」
「ハゲじゃねえわ!」
 カッパが振り返りざまに切れた。

       

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