Neetel Inside ニートノベル
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 花火大会当日の河原は人でごった返している。家族連れ、友達グループ、カップルもいっぱいだ。
「あ、見てみて! これかわいー」
 少女が足を止めたのは、アクセサリーの出店。金属製のブローチやピンバッヂなどが並んでいる。
「買ってあげるよ」
「え? いいの?」
 少年は顔を真っ赤にして答えない。少女はその様子をしばらく見ていたが、やがてクスリと笑った。
「分かった。じゃあこれとこれ」
「分かった。って二つ!?」
「ふふふ。お揃いねっ」
 そうやってはしゃぐ彼女を、少年は眩しそうに見つめた。

「ゆ、ゆ、許せないんだな」
 いつの間に現れたのか、少女の後ろに痩せぎすの男が立っていた。前々から学校で少女につきまとい、問題になっていたストーカー男だ。少年の目が険しくなった。しかし二人が動くより一足先に、男が動いた。
「こ、こんなもの、僕の手で、す、捨ててやるんだな!」
「あ!」
 男は少女の手からピンバッヂをもぎ取るとピンバッジは屋台の照明を反射してキラリと瞬きながら、綺麗な放物線を描いて闇夜を滑り抜けていく。そのまま人込みの向こう、花火会場の奥まで飛んでいって、見えなくなってしまった。
「てめえ!」
 少年は男に掴みかかったが、男は呻き声を上げながら軽く笑った。
「む、無駄なんだな。あのバッヂはもう花火の大筒の中に放り込んじゃったんだな」
「クソッ。あい、探してやるからそこで……あい?」
 少年が気付いた時には、少女の姿は消えていた。
「あっ、あそこ!」
 男の指さした先には、花火発射台に向かって走っていく少女の姿があった。
「お、おいバカ、やめろ! 戻ってこい!」
「そうだ、そんなところ危ないよあいちゃん!」
 二人は慌てて叫ぶが、彼女の歩みは止まらない。大筒が火を吹いた。ヒュ〜ッ、パーンという花火の音が、まるで死刑執行の合図のように聞こえた。
 二人は思わず抱き合う形になって座り込んだ。
「そんな……」
「あいちゃん……」

「あんた達、何やってるの?」
 振り返ると、少女が怪訝な顔をして立っていた。
「お前! よく、無事で……」
「ぼぼぼ、僕もう爆発しちゃったのかと!!」
 二人を訴えを聞いて、少女は呆れ顔で言った。
「あーはいはい。あのね、いくらなんでもそこまで危ないことするわけないでしょ? 子供じゃないんだから」
 それに、と少女は付け加えた。
「あんたみたいな運動もしたことない奴が狙いの場所に投げることなんて出来やしないのよ」

       

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