Neetel Inside ニートノベル
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「349番でお待ちの方ー?」
「はいはい」
 呼び出しを受けてカウンターへと顔を出す。平日の昼間だというのに受付は凄い人出だ。少子化だ、人口減少だなどと言うが、世の中にはまだまだ人がいるではないかという気分になる。
「検査の結果の方が出ましてですね。こちらです」
 出された結果票を見る。文句なし、とまではいかないが、年齢を考えればまあまあの健康体だろう。
「で、検尿の結果なんですが……」
  言われて『検尿』と書かれた項目を確認する。『尿潜血』の部分が陽性になっていた。うわ、尿結石か? いやだなー、そう考えていたら、あることを思い出した。
「あのすいません、実は出すの忘れてたんですけど……」
 鞄の中から検尿容器を取り出して受付の女性に見せると、女性は目を丸くした。
「あのー……どういうことなんでしょう、これ……」
「え、さあ……私が聞きたいぐらいです」
「そちらがご本人で用意されたものということでお間違いないですか?」
「ええ……」
「か、確認して参ります」
 恐らく過去にも例のないことだったのだろう、女性の声が震えていた。そのまま奥に下がっていく。
 少しして、奥から半泣きで謝る声や叱責の声が聞こえたかと思うと、女性が別の女性を伴って現れた。連れて来られた方は最初に受付してもらった人だ。ただその時はこんなにボロボロ泣いてはいなかったが。
「大変申し訳ありませんでした。係の者がお客様の検査容器を紛失したと誤認した上、それを隠すために別の検体を用意したということで、大変ご迷惑をおかけしました。ほら! 貴方も謝りなさい!」
「ううう……すいませんでしたあああ……」
 彼女はしゃっくり声を上げながらおいおい泣いている。なんだか大事になってしまったぞ。私は慌てて言った。
「そんな、そこまで謝られることでもないですよ。こうして原因は分かったわけですし。それで、本来の検査の方は……」
「先ほど頂きました検体を担当の方に回しまして、今割り込みで検査をやっているところでございます。結果が出次第お呼びいたしますので、申し訳ありませんがもう少々お待ち頂けますか?」
「ええ、構いませんよ」
「ところで……」
 聞くべきではないと思ったが、どうしても好奇心を抑えられず私は聞いた。
「別の検体って、どうやって用意したんですか?」
 しゃっくりが突然止まり、沈黙が流れた。女性の顔がみるみる赤くなるのを見て、私は(ああ、尊し)と思った。

       

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