Neetel Inside ニートノベル
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「先生、お疲れ様です!」
「Yくん、良く来た。丁度紹介しようと思っていたところだよ」
 院生が会場後片付けなどの雑用を一通り終えて懇親会会場に戻ると、教授は参加者と話で盛り上がっているところだった。話し相手は外国のお偉い様のように見えるが、見覚えがない。院生は手招きされるがままに先生の横へ歩いていった。
「いやー、良かった良かった、さっきまでいなかったでしょ。君を彼に紹介しようと思ってね。先生、こちらさっき話していたうちの院生のYです」
「先生、こちらの先生はいったい……」
「あれ? Y君覚えてない? 君が前にやってた通信プロトコルに関する研究、あれの草分けというか、一番最初にその仕組みを提案した人だよ。論文読まなかったの?」
「え! いや読みましたよ、ていうかそれなら名前を教えてくださいよ! 顔は分かりませんって」
「ハッハッハッ、今度からは論文に顔写真も載せるようにしないといけませんね」
 院生が教授の意地悪な物言いに反論すると、その先生はからからと笑った。日本語が分かるらしい。
「いや、気付かずにいてお恥ずかしい限りです。御会い出来て光栄です」
 院生が握手を求めて右手を差し出すと、先生は「チッチッ」と舌打ちをして指を振った。
「Y君、君は握手の作法をよく知らないようだね。我々の世界では、握手をするにもそれなりのやり方があるのだよ」
「やり方……ですか?」
 院生が首を捻ると先生は微笑んだ。
「そうとも。よければ教えてあげよう。ほら、まずは片手で握り拳を作るんだ。それを上に振り上げて……」
 先生は院生の腕をゆっくり上に押し上げると、自分の右手でグーの形を作りそちらは下に差し出した。
「こうしてぶつける」
 上と下から拳が接近し、ゴツンと鈍い感覚を残してぶつかった。
「今度は上下を逆にして同じことをする。そしたら今度は手を広げて手の甲を合わせる……」
 言いながら右手の甲同士を重ねていく。
「そしたら指をピロピロと動かすんだ。やってごらん」
「ピ、ピロピロ!?」
 謎の表現に院生は困惑した。ピロピロってなんだ。そもそもこれは本当に握手の一貫なのか。
「先生、からかうのはその辺にしてやってください。Y君、これは先生のおふざけだからね」
 言われるがまま手を動かしていた院生は、教授の苦言に驚いて先生の顔を見た。先生は笑って言った。
「おふざけなものか、これが本当のシェークハンドプロトコルだよ」

       

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