Neetel Inside ニートノベル
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 作業が一通り終わって伸びをしていると、珍しくボスが学生部屋に姿を見せた。
「あ、お疲れ様でーす」
「お疲れ。もう、ご飯って食べた?」
「これから行こうかなーって話してたところですけど。一緒に行きます?」
 一応誘うふりだけすると、ボスは案の定かぶりを振った。
「いや、俺はもう帰るんやけども」
 そう言って背後から、風呂敷に包まれたものを取り出した。
「え、差し入れですか?」
「うーん、まあそんな感じ……」
 やたら歯切れの悪い返事である。受け取って開けてみると、中からスヌーピーのマークの弁当箱が出てきた。どう見ても仕出しの弁当に使う入れ物ではない。
「どうしたんですか、これ?」
「いやぁ、食べるの忘れちゃって……。今さら食べるのも、ねえ?」
 ボスはそう言ってはにかんだ笑顔を浮かべる。段々理解してきた。これはボスの昼食だったものだ。それを食べ忘れていたのを学生に食わせようというわけだ。
「愛妻弁当ですかぁ?」
 試しにかまをかけてみると、はにかみ顔が益々緩んだ。うぜえ……。この人は施しと見せて幸せを『お裾分け(みせつけ)』しようという魂胆だ。
「弁当箱、大学に忘れてきちゃったってことにしときたいからさ。後でいいから明日までに食べて」
 そう言い残すと、ボスはさっさと帰ってしまった。
 蓋を開けて中身を確認する。見た限りはごくごく普通の手製の弁当だ。上の箱はおかずの重で、冷凍食品や、夕食の残りと思しき肉じゃがなどが少しずつ詰められている。下の箱は主食の重で、白米の上にはゆかりでハートマークが描かれている。ちなみにボスは結婚3ヶ月の新婚ほやほやである。氏ね。
 僕は携帯を取り出した。こんな美味しいネタを独り占めするのは勿体ないからだ。LINEで学科メンバーに告知する。
「ボスより珍しき施しあり。各員速やかに弊研究室まで来られたし」


 翌日、僕は猛烈な腹痛で目を覚ました。即座にトイレに直行したが収まる気配はなく、そのまま釘付けになって出られそうもない。今日はボスとの打ち合わせがあるのに……泣く泣く携帯で遅れる旨を連絡すると、ボスから返事が来た。
『遅れるのは了解しました。また別な日にセッティングしましょう。弁当箱はどこに置いておいてくれた? あれ、よく考えたら一昨日のものでした。それが当たったのかもしれないね、ゴメン』
 ゴメンじゃねえよクソボス! 学科LINEは阿鼻叫喚だぞ!

       

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