Neetel Inside ニートノベル
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「なあ、頼むよ……ほんの1時間だけでいいんだ、お願いだ」
「くどいな、何度も言わせるな。俺の目の黒いうちは絶対にさせん」
 なんて酷いことを言う奴なんだ。俺は親父の目を睨みつけたが、親父は平然とこちらを睨み返してきやがった。こういうのは先に目を逸らした方が言い争いでも負けることが多い。必死に対抗しようと目に力を入れるが、眼光圧が高過ぎて思わず目線を逸らしてしまった。
「どうした。人と話すときは目を見て話をしろと教えただろう?」
「そうやって自分の土俵に持ち込もうとしても無駄だぜ。俺は勝ち目のない勝負はしない主義でね」
「話すつもりがないなら自分の部屋に戻ってさっさと寝ろ」
 にべもない親父の態度に俺の俄仕込みのハードボイルド武装はあっけなく崩壊した。
「そんな! 頼むよ、これなしでは俺は駄目になっちまう……明日は大事な日なんだ、トチるわけにはいかないんだよ。だから頼む! 今日だけワガママ聞いてくれよ!」
「男がみっともなく泣きわめくんじゃない」
「いでえ!」
 座った態勢から足を繰り出してきやがった。俺はもんどり打って倒れ込む。チクショウ、こんな時にすら虚弱な自分の体質が恨めしい。だいたい泣いてはなかったじゃないか。わめきながら膝元にすがりつきはしたが。
「何と言われようとこれはやらんぞ」
 親父は俺から没収した白い箱状のモノをしっかと握ると懐にしまいこんだ。
「どうしてそんなに頑ななんだ。何か深い事情でもあるのか? そうなんだろう親父」
「ん……そうだな、まず金がかかる。あと健康に悪い」
「ドケチ! 反知性主義者! 前時代の遺物! 非科学的老害! 鬼畜野郎!」
「なんだと! 黙っておれば言いたい放題!」
「ひえっ」
 親父の足がまた伸びてきたので慌てて避ける。全く足癖の悪いジジイだ。
「俺に喧嘩を売りに来たのかこれを取りにきたのか、どちらにしろお前の思い通りにはならんぞ。帰れ」
「あのさ、親父が言ってるのって実は間違いなんだよ。健康に悪いってのは一昔前のガンガン使いまくってた頃の話で、適切に使えば問題ないわけ。むしろ使わないで我慢する方が体調悪くなって危険なんだぜ? 酷い時は死んじゃうこともある。俺が病気になったり死んだりしたら金だって余計にかかると思うけど?」
「どこからそういうくだらん知識を身につけてきたか知らんが、覚醒剤は使っちゃいかんと昔っから決まっとるんだ!」
 くそっ、話の分からない老害め。

       

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