Neetel Inside ニートノベル
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「グッハッハッハッハ、さあ戦闘員たちよ、ここにいる奴らを皆拘束してしまうのだ!」
「そうはさせるか!」
「何者だ!? はっ、まさか?」
「アクマイトの悪行、たとえお天道様が見逃がしてもこのアニムレンジャーが見逃がさない!」
 お決まりのセリフを叫びながら、俺は怪人組織・アクマイトの幹部であるデュバルの前に立ち塞がった。もう幾度となく繰り返された光景だ。
「おのれにっくきアニムレンジャーめ……! 今日こそは貴様らの思い通りにはさせんぞ、かかれ戦闘員たち!」
「ギッ!」
「ギィ〜!」
 アクマイトの戦闘員たちがこうして向かってくるのももはや見慣れた光景だ。繰り出される手刀や蹴りに手足を合わせ、受けたり躱したりしながら戦闘員たちを薙ぎ倒していく。もはや寝ていても出来るのではないかというぐらい身体に染みついた動きである。
「キャーッ!」
 はて、まだ悲鳴を上げるようなシーンではないと分かっているはずだが。そう思って客席に目をやると、後ろの入口からバラバラと人が逃げ込んでくるのが確認出来た。その後ろから、人よりも巨大な影が入ってくるのも。あれは……クマだ。
 なぜクマがここにいるのか? その答えはすぐに出た。客席中央にある園内放送のスピーカーが喋り始めたのである。
『園内のお客様、並びに従業員にお知らせします。先ほどオリからツキノワグマが一頭逃げ出したことを確認しました。遭遇した場合、気付かれないようにゆっくりとその場から逃げてください。決して立ち向かったり、捕獲しようとしないでください。繰り返します……』
 ハッと気付くと、俺の足にデュバルが取りついていた。その声は震えていて、ほとんど鳴き声だ。
「た、助けてくれぇ……アニムレンジャー……」
 無茶言うな。俺はスーツアクターだぞ。だが、気付けば多くの観客が俺たちの後ろに隠れて、何かを期待する目で俺を見ている。
 止めろ。そんな目で見るな。そんな風に意識するな。そんなに期待されたら……。
 銃声が鳴り響く。クマは動きを止め、やがて崩れ落ちた。続いて複数人の警官と猟銃を持った人たちが広場にどやどやと入ってきた。
「大丈夫でしたか? 怪我人はいませんか?」
「ありがとうございます。幸い僕らは……」
 そう答えながら、俺は冷や汗を拭った。危ない危ない。俺はスーツアクター。こんなところで正体を明かすわけにはいかないんだ。

       

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