Neetel Inside ニートノベル
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「お客さん、終点ですよ」
 目を覚ました男が辺りを見渡すと、そこは見覚えのない見知らぬベンチの上だった。
「あー……あ?」
 寝惚けた頭で記憶を反芻する。確か、会社の新人歓迎会でしこたま飲んで……それから……。起こしてくれた車掌に話を聞こうと辺りを見回したが、誰もいない。どころか、よく見ればここは電車の中ですらなかった。車掌の声は幻聴だったのか?
「おかしいな……まだ酔いが覚めてないのか……?」
 ベンチから立ち上がってホームを一瞥する。申し訳程度に街灯のようなものがポツポツと立っているが、明かりが弱いのか数が少なすぎるのか自分の足の先も見えないほど辺りは真っ暗だ。雨は幸い降っていないが、何故か星の明かりはほとんど見えず、空は漆黒の帳に包まれている。
「どこなんだここは……」
 何度か終点まで乗り過ごしたことはあるが、こんな駅は記憶にない。不審に思いながら駅舎の前で時刻表を確認する。当然というか、やはりもうとっくに終電は終わっている。どうやらこの辺りで始発を待つしかなさそうだ。こんな真っ暗闇で泊まれるところがあるか分からないが、ずっとベンチに座っていても仕方がないと、男は改札に向かった。
 駅舎も待合室は電気がついているが、駅員が詰めてる筈の中は真っ暗で、人がいる様子もない。金属の柵が並んでいるだけの有人改札も駅員がいるべき場所は無人になっており、通路はチェーンで閉じられている。備えつけのベルを鳴らしてみたが駅員が来る様子はない。
 改札を通して外の様子を眺める。明かりのある場所から見ると更に真っ暗で、全く何があるのか分からない。民家かビルか、田んぼか、はたまた……。いくらなんでもこんなに暗いっておかしいんじゃないか? そんな気持ちが芽生えてきた。だって、仮にも電車が通っているような場所なのだ。それだけの場所にあって、これほどの暗闇が存在しうるのだろうか? ひょっとしてここは人里ならざる異界の地なのでは?
 ガサリ、と背後で音がして男は跳び上がった。恐る恐る振り返ると、そこには寝惚け眼を擦りながら駅員の制服を来た男が立っていた。
「お客さん終電でここに? 悪いね、寝てたもんだから」
 直通運転が始まってから多いんだよね、とぼやきながら改札扱いをしてくれるのを聞きながら、密かに男は思った。
 この人が寝ていたのなら、誰が起こしてくれたんだ?

       

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