Neetel Inside ニートノベル
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 当直は暇だ。デブリ衝突監視が重要とは言えども、ずっとコントロールパネルを眺めていれば飽きもする。
 だから、後ろから同僚がやってきたのにもすぐに気がついた。
「どうしたんだよ。寝れないのか?」
 軽い冗談のつもりだったが、同僚は図星であるかのように軽く身を震わせた。
「あ、ああ、ちょっとな」
「歯切れの悪い返事だな。なんかあったのか」
 返答はなかった。同僚はこちらを見ていない。
「あれ……」
 目線を追って窓の外を見る。外の宙間には、白い人影がこちらを見据えてゆらゆらと漂っていた。
「ゆ、幽霊……」
 静かな指令室に、同僚の声が谺した。

「どどどどうしよう、俺たちとり殺されちまうのかな……」
「落ち着け、幽霊なんているわけないだろ。ちょっと待て……」
 縋りつく同僚を払い退けて手元の端末で検索をかける。過去にあった軌道上事故をデータベースから検索し、軌道カタログの中から該当するデブリをリストアップ、それらと基地との位置関係を導出してプロットすれば……
「ビンゴ!」
 宙間地図には基地と同座標にあるデブリが存在していることを示していた。
「な、何が?」
 まだ恐怖が抜けきらない顔で同僚が尋ねる。俺は手元のロボットアームを操作しながら説明してやった。
「これは過去の事故で発生したデブリのカタログだ。宙間地図との照合によれば、そのうちおよそ1万個弱のデブリが今の基地周辺に散らばっているが……そのうち人型をしたデブリが一つだけ確認されている。そこへ来て昨日今日の幽霊騒動だ。つまり……」
 ロボットアームで外に漂っていた『幽霊』を機内に回収してやる。エアロックを開けると、そこには旧式の宇宙服が一着鎮座していた。顔部分を軽くこすると、中にミイラのような顔があるのが見えた。
「事故で亡くなった宇宙飛行士の遺骸だよ。これが基地の周りを漂ってたってわけだ」
「じゃ、じゃあやっぱり幽霊っていうのは正しかったってことか……」
「いや正しくはないだろ……。ま、当たらずとも遠からずってところかな?」
「いや当たってんだろ! 絶対その宇宙飛行士の霊が何かしてたに違いないぜ!」
「言われてみれば……」
 調べてみれば事故が起こったのは随分と前だ。それに船外活動をしていた人間が事故に巻き込まれるパターンは意外に少ない。そんな事故の遺骸が偶然にも都合よく人のいる宇宙基地まで漂ってくるものだろうか。
 ミイラの顔は笑っているように見えた。

       

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