Neetel Inside ニートノベル
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「おかーさん、回覧板ー」
「あー、ハンコ押して回しておいて」
「はーい」
 引き出しを探ってシャチハタを探す。板を開いて中を覗くと、近所に住む家の名簿がリストになってずらりと並んでいる。うちの名前はどこかな。見つけて判を押そうとした時におかしなことに気付いた。
「おかーさん、この名簿抜けがあるよ」
「えーほんと? 前に回った時はちゃんと全部合ったと思うけど……変えたのかしらね?」
「うちの名前はあるからそのまま押していい?」
「いいわよー……あ、ちょっと待って」
 母がストップを掛けるのが遅かったおかげで私は既にハンコを押してしまっていた。
「えー押しちゃったよ。何かあるの?」
「んーちょっと気になることがね……」
 少しムカッとしながら尋ねると、お勝手から母がやってきて回覧板を取り上げた。「そういえばそろそろあの季節なのよね……」と呟きながら周知告知をめくって読んでいたが、途中で手が止まった。
「あーやっぱり……あんた間違えたのね……そっか……はあ、どうしよう……」
「何よ? 私なにか間違えたの? え、そんなに悪いことなの……ねえ、教えてよ!」
 母は「もっと早く気付いていれば」とか「でも押したの本人だしな……」とか思わせぶりなことばかり呟き続けている。イライラした私は母に詰め寄った。
 母は突然の大声に驚いた様子でしばらく口をパクパクさせていたが、やがて何も言わないことに決めたらしく、傍目には落ち着きを取り戻した。
「なんでもないわよ。あんたのハンコ押した書類の下に本当の名簿あったわよ? 全くそそっかしいんだから」
 「私が持ってくからもういいわ」。そういうと母は私の手からシャチハタを取り上げてお勝手に下がっていた。
 嘘だ。あれほど取り乱しておいてなんでもないわけがない。それに突然私から回覧板を取り上げたのも妙だ。明らかに私が押した判子が何かまずいことを引き起こしたのだ。とはいえ、一度ああなった母から事態を聞き出すことはもう出来ないだろう。となれば、取れる手段は一つしかない。私は財布を引っ付かむと「ちょっと買い物行ってくる!」と叫び残して家を出た。

「あった」
 隣の家のポストを探ると、回覧板はそこにあった。母も手渡しは出来なかったらしい。早速取り上げて中身を確認する。さっき撞いた判子は……これかな?
 その書類には「今年度例大祭実行委員のお願い(ご了承頂ける方は捺印をお願いします)」と書かれていた。

       

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