Neetel Inside ニートノベル
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「今日はどうされました」
「はい……私、雨女なんです」
「はあ」
「昔はそんなことなかったんですよ? 小学校の時の運動会でもいつも晴れでしたし、中学の部活の大会も、高校の修学旅行だっていつも晴れでした」
「そうですか……」
「ところがここ2、3年おかしいんです。ちょっとどこか遠出しようとすると必ず雨が降るようになってしまって……」
「あのお姉さん、来るところ間違ってないですか? ここは外科ですよ?」
 白衣を来た医者が呆れ顔で言うと、女はきょとんとした。
「そうですか? こちらで治していただけると聞いてきたんですけど」
「治りませんよ。ていうか、雨女を治すってなんですか」
「おかしいなー。でも私の友達は確かにここで治してもらったって言ってましたよ? その人は今はもう晴女で……」
「そう言われましても……何かの間違いじゃないですか?」
 医者は心底困った様子で女を見た。真面目な顔を見る限りひやかしやおちょくりで来ているわけではなさそうだ。医者は一つの仮説に思い当たった。彼女は別の疾患に罹っており、来る科を間違えたのではないだろうか? 例えば精神科、とか……。知り合いの精神科医の顔が思い浮かんだ。
「間違いありません! ここで治してもらったって! 何が理由かまでは分からなかったみたいですけど、ここなのは間違いないって!」
「落ち着いてください。さっきも言いましたが、私にはさっぱり心当たりがないんですよ……」
 今にも掴みかかりそうな勢いの女を押し留めて、医者は思案した。これ以上関わってもしょうがない。知り合いに紹介状でも書いておこう。
「取りあえずお力になれそうな知り合いの医院を紹介しますので、今日はお帰り下さい。特にこちらから付けられる診断や出せるお薬もありませんので……」
「……そうですか。分かりました」
「それと、これはお薬出さない患者さんに差し上げてるものです。最近暑いですから」
 医者は戸棚から飴玉を一つ取り出した。それを見た瞬間、女は目を輝かせた。
「こ、これだ! そうかこれだったんだ! 先生、お騒がせして申し訳ありませんでした。ありがとうございます!」
 挨拶もそこそこに診察室を出ていく女と入れ替わりに入ってきた看護師が医者に聞いた。
「あんなにはしゃいで、あの患者さん、何かいい事でもあったんですか?」
「いや、他の医者を紹介しただけだ。ああ、あと塩飴を渡したかな」

       

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