Neetel Inside ニートノベル
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 見たことがないほど深い竹林が眼前に広がっていた。
 最初は軽い散歩の予定だった。煮詰まった頭をほぐそうと知らない場所まで足を伸ばしたのはいいが、結果迷うというよくある奴だ。自業自得である。目印を探そうにもあっちも竹、こっちも竹で方角が分からん。GoogleマップのGPS機能も視界が悪いおかげで精度不十分だ。
「あでっ」
 Googleマップを眺めながら歩いていたせいで何かに蹴っ躓いて転びそうになる。足元を見ると竹の子がなんと道の真ん中に生えてるではないか。竹の子め。どこまで俺を嘲笑うつもりなのか……恨みを込めて睨みつけていると、後ろから声をかけられた。
「お困りかな?」
 サンダル、ステテコに白いタンクトップ、背中に籠。絵に描いたような田舎の老人がそこにいた。
「何か悩みを、それもかなり深刻なものを、思い患っておられると見受けるの」
「え、いや……」
 老人は背中に背負っていた排膿を下ろすと、中から鉈を取り出した。
「竹というのはのう……成長も早いし、傍から見るといつも本当に伸び伸びとしておる。繁殖力も強いから、過去にそこにあった樹木林の生態系を壊して自分のものにしてしまうこともある」
 老人は鉈で手近な竹の根本に切れ目を入れると、足で強く蹴りつけた。ミシミシと軽快な音を立てて竹が割れて倒れていく。
「その成長の様が時に羨ましく思えることもあるかもしれん。じゃがその分、あっという間に枯れてしまうんじゃ。適切な管理がされておれば別じゃが、放って置かれた竹林など、しばらくすればまた別の樹木が入ってきて、竹に取って変わってゆく。何も特別なことではない。成長の速度は一様ではないし、早く実ったものは早く腐る。簡単なことじゃよ。じゃから、お前さんもそんなに肩肘張らずに生きていけばいい。竹は竹、自分は自分じゃ」
 老人は鉈の柄を俺の方へ差し出すと言った。
「ほれ、ストレス解消に丁度いいぞ。やってみい」
「あの……じゃあその竹の子を切ってみたいんですけど」
 俺の言葉に老人は渋い顔をした。
「なに? これは駄目じゃ。これは儂が後で掘り起こして食うからな」
「えー。じゃあいいです。道だけ教えてください」
「なんじゃ、迷子か。人生訓垂れて損したわ」
 老人は少し残念そうな顔をしているが、本当のことは言わない方がよさそうだ。俺は自室の中で考えていた、大学の生協の投票でたけのこの里に勝つ方法に改めて思いを馳せた。

       

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