Neetel Inside ニートノベル
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 定休日を引き当てるのが昔から得意だった。外食しようとするとなぜか必ず定休日の店に行ってしまう。中でも一番傑作だったのは、事前に調べて年中無休だった店に行った時だ。店の電気がついてないからおかしいなと思っていたら、扉に張り紙がしてあって『年に一度の社員旅行の為に特別休業! ごめんなさい!』なんて書いてあるものだから、怒りを通り越して笑ってしまった。それ以来、滅多なことでは外食しなくなった。
 定休日引きは飯屋に限った話ではない。例えば床屋。もう何度月曜日に切りに行こうとしたか分からないほどだ。あまりに月曜日に髪を切ることを思い付くので、一度火曜定休の床屋を探したことがある。翌月、案の定その事を忘れた俺は火曜日に髪を切りに行った。もちろん、床屋は定休日だった。
 定休日がないから安心かと思いきや、そうでもない。例えば寺や神社だ。有名どころの国宝だの重要文化財だのは勿論、旅行先でぶらりと入った寺の御本尊とかちょっと珍しい狛犬とか、観に行った時にはほぼ確実に修復作業や建て替え工事によって観覧出来ないようになっている。お蔭で工事業者のロゴデザインを見ただけで業者の名前が分かるようになった。嬉しくもなんともないけど。

 クソみたいな特技ではあるが、たまにはいい事もある。以前に後輩の気になる女の子にそれとなく週末の予定を聞いたら、『別の先輩とディズニーランドに行く』なんて笑顔で言い放つのでびっくり仰天。すぐさま同じ日のチケットを抑えたところ、ほとんどのアトラクションがメンテナンスや故障、停電騷ぎを起こしてランド全体が開店休業状態に。頼みのエレクトリカル・パレードは夕方降り始めた雨の為に中止に。雨合羽を着て男と罵り合う後輩を見かけた時は胸がスッとした。この後後輩への猛アタックが実って付き合うことになったが、デートで外出したことはない。彼女からディズニーを仄めかされるたびに話を誤魔化して、絶対におうちデートにしている。そろそろ愛想を尽かされるかもしれないが、そうなったら仕方がない。
 最近はこの経験を活かして、軽いバイトを始めた。日給1万円の『別れさせ屋』だ。遊園地デートに留まらず、レストランでのディナー、合コン、お見合い、果ては結婚式の二次会に至るまで、ありとあらゆる男女の出会いを台無しにしている。目下の悩みは、やってると段々虚しくなること。需要はあるが、他の人にはオススメ出来ない。

       

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Neetsha