Neetel Inside ニートノベル
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「いてっ」
「何やってんだよ! ちゃんと取れよもう」
 弟がキャッチし損ねて頭にボールをぶつけたのを見て、兄は腹を立てた。
「ううう、だってよく見えなかったんだもん」
「言い訳すんな! 早くボール取ってこい、続きやるぞ」
「でもさ……あれ、ボールどこ?」
 気がつけばもう夕方だ。山の裾野辺りにある公園からは山が陰になって太陽の光が遮られ、大分手元や足元が見辛くなっていた。まだ夕方だからなのか、街灯はついていなかった。
「しょうがねえな。俺はこっちを探すから、お前はあっちを見てこい」
 二人は手分けして公園の中を探し始めた。ところが暗いせいか、二人がかりなのにボールは中々見つからない。
「兄ちゃん、もう帰ろうよぉ」
「バカ、ボールなくしたなんてバレたらそれもまた怒られるんだぞ」
「また明日探せばいいじゃん……。ここ暗くなると、お化け出るんだよぉ」
 弟は半泣きだ。無理もない。今日は早く帰って久々に帰ってくる父ちゃんのお出迎えをするのだ。父ちゃんの帰宅に間に合わなかったら母ちゃんがどれほど怒るか、兄だって想像もしたくなかった。しかし、弟の言うことを聞くのはなんとなく癪だった。
「嘘付くなよ。そんなの聞いたことないぞ」
「でも、その怪物、凄い音立てながらもの凄い早さで走ってくるって……目がギラギラ光って遠くからでも見えるって」
「へ、お前もしかして怖いのか? 俺は平気だけど」
 弟は何か言い返そうとしたのか口を開き、そのまましばし驚愕の表情で固まった。わずかな沈黙の隙間を縫って、遠くから低い唸るような音が響いてくる。
「ま、まさか……」
 それと同時に、兄の後ろから何かの明かりが差し込んできた。思わず振り返るとそこには、大きな二つの明るい光が二人をジッを見据えているではないか。
「で、出たああああああああああ!!」
 弟が叫んだと同時に、また別の大音量が鳴り渡った。
「アンタタチィ! 何こんな時間まで油売ってんだい! 父ちゃん帰ってきちゃったじゃないか!」
 怪物の脇からひょこりと人の首が覗いた。二人の母親だ。煌々と光る二つの明かりは怪物の目ではなく、車のヘッドライトだった。運転席には父親の姿も見える。二人は思わず泣き出した。
「うわあああああん母ちゃあああん」
「良かったあ……母ちゃんで良かったよお……」
「な、なんだいあんた達……」
 叱り飛ばしたのに喜びながら駆け寄ってくる二人に、母親はただただ困惑していた。

       

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