Neetel Inside ニートノベル
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「ではこちらの浴衣に着替えていただいて、更衣室から砂浜までおいで下さい。頭が砂で汚れますのでこちらのタオルを枕代わりにお使いください」
 受付で渡された浴衣は青地の布に白い柄がついたそこそこ厚手のしっかりとしたものだった。破れやすいだろうからしっかりしたものを使うのは当然と言えば当然だが、汚れとか大丈夫なのだろうか。そんな心配を見越したのか、受付嬢が気を効かせたように言われてしまった。
「大丈夫ですよ。毎回キチンと洗濯していますし、砂が残らないように丁寧に確認していますから……」
「あ、いえ、なんかすいません……」
 しまった、顔に出ていただろうか。恥ずかしさに逃げるように受付を去り、私は地上の更衣室へと向かった。

 着替えて砂浜に降りると、テントの屋根に囲まれた場所が見えた。中を覗くと、幾人もの観光客が砂の中に埋まり、目を閉じて気持ち良さそうな顔だけを突き出している。昨日水族館で見たハゼの群れを思い出した。
 私もハゼの群れに混ぜて貰おうと近くへ行くと、係員と思しき屈強なお兄さんが、心配そうに穴を覗き込んでいる。
「駄目だ、返事がねえな。掘り起こすか……あ、お客さんすいません、今ちょっとたてこんでまして……もう少しだけそこで待っとってもらえますか?」
「分かりました」
 私は軽く会釈して了解の意を示し、様子を見守った。どうやら砂風呂の中に引っ込んでしまって出て来ないお客さんがいて、それを掘り起こそうとしているらしい。あんな大量の砂を上から被せられて動けるというのも凄いが、ただでさえ熱くて息苦しいのに更に中に潜り込んで、しかも出て来ないだなんて恐ろしい話だ。心配で様子を見ていると、スコップで慎重に砂をかき分けていたお兄さんが大声を出した。
「おお、見えた見えた!」
 そう言うと手に持っていたスコップを投げ出して穴の中に顔と手を突っ込む。「駄目だ、砂が邪魔だな……スコップいるわこれ!」の声。スコップ? さっき放り出したところではないか。判断ミスに苦笑しながら私はスコップを拾うと、穴の奥に差し出した。
「どうぞ」
「おう、これはどうも……ってこれさっきのシャベルでねえか! 俺が欲しいのはスコップですよお客さん!」
「え、これスコップですよね? シャベルはもっと小さい奴で」
「は?」
「え?」
 その時穴の奥から声がした。
「どっちでもいいから助けてくれえ……」

       

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