Neetel Inside ニートノベル
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 食事を終えてから部屋に戻って一息ついていると、なんだか外が騷がしい。
「なんだろう」
「なにかあったのかな」
 ホテルの窓越しに様子を確認してみる。相変わらず通りは人でごった返していたが、混雑は昨日と比べて明らかに酷くなっているような気がした。道端の露店の数も増えているようだ。
「あ、見て!」
 彼女が指さした方向を見ると、デコレーションされた路面電車の上で国の伝統衣装を来た人々が踊りを披露していた。耳を澄ませば松囃子も窓越しに聞こえてくるようだ。
「お祭りかな?」
「行ってみよっか」
 僕らは予定を変更して見物に出掛けることにした。

「うわ、なんだこりゃ」
 見渡す限り人、人、人の海。背伸びしても電車はおろか見えるのは黒い頭だけだ。近寄ろうにも考えることは皆同じで、押しくら饅頭が苦手な僕は早くも閉口してしまった。
「全然見えないし、部屋戻る?」
 聞いてみたものの返事がない。はぐれたのかと慌てて振り返ると、彼女は脇に並ぶ露店を眺めているのだった。
「どしたの。なんか欲しいものでもあるの」
「見て」
 彼女はそれだけ言うと店の前に置かれた箱の中を指さした。言葉で説明せず指さすのは彼女の癖だった。
「懐かしいな」
 僕はそうとだけ返事をした。それはカラーひよこだった。天然では絶対にあり得ない、ケバケバしい蛍光色に塗られた雛鳥だ。見れば、人の海の中で泳ぐ子供たちの中にも何人か、赤や青の毛をした小鳥を手に抱えたり籠に入れたりしている者がいる。日本ではとんと見なくなったが、この国ではまだお祭りと言えばカラーひよこなのだろう。
「欲しい?」
 そう聞くと、彼女は少しだけ首をかしげておかしなことを言った。
「でも、お腹あんまり空いてないしな」
「食べるの? 健康に悪いと思うけど」
「健康に? そりゃ色は毒々しいけど、ああいうのって着色料そんなに沢山は入ってないよ」
「そういうものなのかな」
 確か最近のカラーひよこは毛を染めるのではなくて、卵の中に着色料を直接注射するのだと聞いたけど。
「それに、焼き立てだからきっとおいしいよ」
「焼きたて?」
 彼女の言うことが分からなくなった僕は並んでいるひよこたちをもう一度よく見てみた。そして気付いた。そこに並んでいるのは福岡銘菓だということに。
「ひよ子か」
 そう呟いた僕を彼女は軽くたしなめた。
「違うよ、ここは福岡じゃないから」

       

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