Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 会場一面にズラリと並ぶケージ。中に入れられているのは保健所で保護された野生動物やペット達だ。犬猫から大きなものはヘビ、アライグマ、小さなものはハムスターやセキセイインコに至るまで、種類を問わず様々な動物が並べられている。
 安易なペット飼育に警鐘を鳴らす運動は各所にあるが、保健所における殺処分の件数は中々減少しない。そんな現状を打破しようと、NPO法人と保健所が共同で里親探しのイベントを開催する運びとなったのだ。入場は無料となり、入口でペット達のカタログをもらった家族連れやカップルが目当ての種類の動物が並ぶ列を眺めて物色していく。
 だが、何といってもこの里親募集イベントで特徴的なのは、動物の方ではない。
「なんでもします……だから赦してください……」
「お願いです……ここから出して……」
 ケージ内のペット達を見比べている家族たちにそう訴えかけているのは、ペット達のケージの真横に設けられたケージに入れられた人間たちだ。彼らはいずれも保健所が保護したペットたちの元・飼い主である。保健所の掲げる『ペット遺棄ゼロ』運動の一環として確保・収容され、飼い主としての再教育を受けた。
 人間たちのケージの周りに集まっているのは犬、猫を始めとした動物たちだ。いずれも保健所における選抜試験をくぐり抜けた選り抜きの優秀な元ペット達である。彼らはケージの中に閉じ込められた元飼い主の中から自分に合った理想の飼い主を選んで保健所を独立していく。
「この人いいわね。お仕事は何?」
 ある一匹の狐が目を止めたのは一人の男性のケージ。足元の資料には再教育試験をトップクラスの成績で通過したことを示す「A」の文字が印刷されている。
「商社マンですね。学生時代に猫を飼っていましたが、就職後に世話の時間がなくなり捨てたようです」
「そう。じゃあほとんど家にいないわけね……気に入ったわ。彼まだ空いてる? いただけるかしら」
「ちょっと待ってくださいね……大丈夫です。まだ希望者いませんね」
「拾ってくれるんですね! ありがとうございます! ありがとうございます!」
 コメツキバッタのようにケージの中で土下座を繰り返す男を見ながら、狐は冷たく呟いた。
「馬鹿な人。ただ私が保健所の処分を免れるために用意される仮の飼い主ってだけなのにあんなに喜んで。あれなら部屋に分身を置く必要すらなさそうね」

       

表紙
Tweet

Neetsha