Neetel Inside ニートノベル
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 見通しのよい広めの国道沿いの道。パッと見は平坦に見えるが実際は緩い坂になっている、自転車乗りにとっては罠みたいな道だ。体力がないことで名を知られた我が友人は既に漕ぐのを諦めて自転車を押しながらぶつくさ文句を言っている。
「つかれたー。まだかかるの?」
「さっき休んだとこやん。もうチェックインの時間過ぎてるんやぞ」
「いや休まないと無理。もう動けない。休もう」
 忠告してやったのに友人は意に介さない。というかこの友人、俺の言うことを聞いた試しがないのだ。しばらくキョロキョロしていたが、突然大声を上げた。
「あ! あそこに売店あるじゃん、あそこで何か飲もう、お腹空いた」
「おいこら! ルート外れんな! ……っていうか動けんじゃねえか」
 やれやれ、これで更に30分の遅刻かな、と俺は呟きながら彼の後を追った。

「おーい、こっちこっち」
「ったく……食料ならさっきの休憩したコンビニで買ったろ?」
「あれはもう食った。それより見ろよ、レモソ牛乳だって」
 友人が指差した先には、黄色いパッケージの牛乳パックが山積みされている。看板には「トイチ名産・レモソ牛乳」と銘打ってある。
「旨そうじゃね?」
 友人は柑橘類が好きなのもあって興味津々な様子だ。恐らく甘酸っぱい飲むヨーグルトやレモネードのような味わいを想像しているのだろう。俺は過去に飲んだことがあったのでただ香り付けされているだけで甘い色付きの牛乳に過ぎないことを既に知っていたが、彼の期待に水を差すのもなんだと思っていたのでとぼけておいた。
「どうかな? レモソ入れたら牛乳固まっちゃうだろ」
「バカ、そうなってねえから売り物になってんだろが。おばちゃん、これ5つ」
 バカはレジに声をかけたので流石に俺は慌てた。
「そんなに買ってどうすんだよ。荷物になるだろ」
「いいよ、ここで飲んでくし。1パックの容量少ないし飲み切れるって」
「アホか。腐っても牛乳だぞ」
「うちの牛乳は新鮮だよ」
 田舎特有のフレンドリーさで何故か口喧嘩に参加を始めるレジのおばちゃん。勘弁してくれ。
「だよな! ほらみろ、おばちゃんの折り紙つきだ」
「あー、もう知らね」
 結局その場では勢いに押し切られてしまい、1リットルの牛乳が友人の腹の中に入っていくこととなった。
 勿論その後彼が激しい腹痛に見舞われたことは言うまでもない。レモソ牛乳は酸っぱくて美味しかったとは彼の便、いや弁である。

       

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