Neetel Inside ニートノベル
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「妖気、感じてるね」
「妖気?」
「寝癖だよ、その寝癖」
「ああ……」
 頭に手をやると今日も元気にアンテナが一本生えている。上から抑えつければその瞬間は引っ込むが、手を離せば元通りだ。
「すいません、だらしなくて」
「いや、いいよ。君がだらしないのはいつものことだしね」
 相変わらずこの人は性格が悪い。
「ところでなんですか、妖気って」
「なんだ、知らんの? 最近の若者はこれだからいかんなあ」
 最近のって、どうせマンガか何かでしょう。元ネタが何かはどうでもよかったが、先輩の態度が少しムカついたので僕は少し乗ってあげることにした。
「あ、でも言われてみると寝癖ついてた時って、なんかの気を感じるような気がしますね」
「おいおい、何言ってるんだ急に」
「うーん、この気配は……あっちの方からですね。はっ、まさか課長代理……」
 僕が芝居がかった口調で「ぬらりひょん」というあだ名がついている課長代理に目をやると、先輩はツボに入ったらしく大声で笑い始めた。
「お前、いくらなんでもそれは」
「そこ、静かにしなさい」
「ヒッ」
「申し訳ありませんでした」
 先輩があんまり笑うものだから、視線を感じた課長代理に注意されてしまった。びっくりして息を詰まらせた先輩に代わって課長代理に謝罪する。よく出来た後輩だな、と内心自画自賛していたら先輩に頭を小突かれた。
「痛いっ。何するんですか」
「なんかムカついた。顔が侮辱行為」
「酷い言い草だ……」
「君、ちょっといいかね?」
 先輩とふざけているうちに、背後から課長代理の接近を許していた。
「なんでしょう」
「ちょっと話がある。外で話すから来なさい」
 しかもお呼び出し、個別指導のオマケつきだ。なぜだ。ちゃんと謝ったし、ふざけ始めたのも笑ったのも先輩なのに。先輩の顔を見るとふざけた顔でざまあと口だけで言って笑っている。この人は本当に性格が悪い。会社辞めるときはこの人を刺してからにしよう。が、何はともあれまずは面談を乗り切らなくては。
「えっと、あの……本当にすいませんでした」
 廊下に出るなり謝罪して頭を下げると、課長代理が面喰らった顔をした。
「え? あ、いや、うん……それよりもだ」
「はあ?」
 思わずマヌケな声が出た。どうやら怒られるわけではないらしい。
「いつから気付いていたんだ?」
「なにがですか?」
「今さらとぼけないでくれ。気付いたんだろう。私から漏れている妖気に」

       

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