「女湯を覗くぞ!」
風呂場に入るなり、先輩は高らかに宣言した。
「何をいきなり、無茶ですよ」
「ビビっては為すものも為せんぞ! 学生旅行では男は女湯を覗くものと決まっている!」
「そんなこと言ったって、あんな高い塀登れませんよ」
僕の言葉を先輩は鼻で笑った。
「ふん、お前ら、何のために体育祭で身体を鍛えてきたと思っているんだ。見てろ」
先輩は塀の真下で突然俯せになると、背中をピンと伸ばした。
「あの、先輩?」
「ほら、何やってる。お前らも早く並べ! ピラミッドの土台を作るぞ」
先輩の言葉に僕らは顔を見合わせた。
「ピラミッドって、まさかあの組み体操の」
「そうだ! ピラミッドの段数を増やせばいずれ塀の高さを越える、つまり女湯が覗ける! 体育祭で鍛え上げた成果、今こそ見せるときだ!」
「おお、なるほど! この時の為のあの辛く苦しい練習だったんですね!」
先輩の号令一下、僕らはいそいそと組体操を始めた。
「どうだー? 見えるかー?」
「うーん……立てば見えそう、です……」
最上段からの報告に下は湧き上がった。
「よし、見えることを確認したら一回降りてこい」
「交代で上に登って見ようぜ」
「順番決めようぜ! じゃんけんでいいかな」
「あ! あ! ダメ、揺らさないで」
最後の方の言葉は悲鳴に変わっていた。ドボン、という音と共に水飛沫が上がり、僕らは湯船に放り出された。
組体操に失敗した僕らは再度作戦会議を開いた。
「やはりピラミッドでは駄目だな。土台となる人と上に登る人とが入れ替わるのに時間がかかりすぎる」
「しかし、他に高所を取る手段となると」
「これしかあるまい」
でてきたのはやたらデカい棒だった。
「なんですか、その棒?」
「これは棒倒しの棒だ。お前ら棒倒しの要領でこの棒を立てろ。絶対に倒すなよ」
「え? 立てるって、まさか」
「そうだ。俺は攻め側の要領で、この棒の上に登る。そして覗く! 体育祭で鍛え上げた成果、今こそ見せるときだ!」
「おお、なるほど! この時の為のあの辛く苦しい練習だったんですね!」
先輩の号令一下、僕らはいそいそと棒倒しを始めた。
「どうですか、先輩、見えますか」
「うーん、あとちょっと……もう少し高さが欲しい……もっとちゃんと立てろ、頑張れ!」
「そんな、これが限界……あっ」
ずこっ、と誰かが足を滑らせたような音が聞こえた。ドボン、という音と共に水飛沫が上がり、僕らは湯船に放り出された。