Neetel Inside ニートノベル
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「ねえ、ホントにこんなところに宿があるの?」
「こんなところだから安いんだよ。最近流行ってるから」
「でも、ちゃんとした旅館とかじゃないんでしょ? 何かあったら困る」
「大丈夫だよ。前に使ったこともあるけど、意外と清潔で過ごしやすいし、宿の人と顔を合わせなくていいからむしろ気楽に使えるし」
 男は気楽に言うとやおら郵便受けに近寄り、ガチャガチャやり始めた。
「ねえ、何してるの?」
「鍵だよ。ここが受け渡し場所に指定されてるから。ん、これ開かないな」
「もう……貸して」
 女は男を郵便受けの前からどかすと、あっさり扉を開けた。
「はい、鍵。全く、使ったことあるんじゃなかったの?」
「いや、一回使ったぐらいじゃ覚えられないだろ……。ていうか、お前はなんで開け方知ってるんだよ」
「え? あ、前に住んでた部屋がこんな感じの郵便受けだったから……何、悪い?」
 男は少し何か言いたそうに口を動かしたが、結局何も言わずに肩をすくめて女の後をついていった。

「あれ? 開かない」
 指定された部屋に鍵を差し込んだ男は首をかしげた。
「ほら、やっぱり何かあったじゃん。素直に普通のホテルにすれば良かったんだよ」
「うっさいな」
 貸し主は『渡す鍵を間違えたので、正しい鍵を渡しに行く』と連絡してきた。しかし、女はこれを聞いて眉間に皺をよせた。
「私、こんなところでずっと立ちんぼするのイヤ。そこの喫茶店で待ち合わせにしよ? いいでしょ?」
「いちいちワガママだな……そんなにこの建物イヤなの?」
「イヤ! 人に会うかもだし……何だったら今からでもホテルに変更したいぐらい」
 男は少し何か言いたそうに口を動かしたが、結局何も言わずに肩をすくめた。

 喫茶店で待つこと数分、ホストの男が喫茶店に現れた。
「いや、この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ところで、お連れ様はどちらに……?」
「え……あれ?」
 男が辺りを見渡した次の瞬間、入口のベルが鳴った。見れば女が走って出て行くところだった。
「「ヨーコ!」」
 二人が叫んだのは同時で、思わず顔を見合わせたのも同時だった。
「あれが、そちらのお連れさん?」
「そういうそちらは、どういう関係ですか?」
 訝って聞いた男に、ホストはピシャリと言った。
「父ですが」
「あっ……お義父さんでいらっしゃいましたか」
「『お義父さん』と呼ぶな」
 男は少し何か言いたそうに口を動かしたが、結局何も言わずに肩をすくめた。

       

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