Neetel Inside ニートノベル
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 その日様々な業務メールや広告メールに紛れて届いたのは、時代遅れ甚だしいスパムメールであった。
 得体の知れない怪しげな差出人アドレスに聞き覚えのない英名の差出人、本文は意味を為さないアルファベットの羅列だし、唯一意味の通るタイトルは「Trick or Treat?」と気取っている。大方ハロウィンの一斉送信なので言いたくなったのだろう。それにしたって今時画像もhtmlもなしの平文テキストでスパムとは……よく迷惑メールフィルタに引っ掛からなかったと逆に感心してしまった。即座にゴミ箱にドラッグ・アンド・ドロップ。
「さて、今日はこの辺にして寝ますか」
 パソコンの電源を切ろうとした時、異変に気付いた。マウスが動かない。キーボードからのショートカット操作も受け付けてくれないようだ。CPUファンが激しく回り始めたところから見るとフリーズだろう。
「おいおい勘弁してくれ」
 まだ保存が終わってない書類がいくつかあるんだが? とPCに向かって訴えかけても後の祭りである。泣く泣く電源ボタンを長押しして強制終了。電源を再投入して出てきた表示に思わず舌打ちして顔を顰めた。
「あ〜〜まずいなーこれ、まずいよー」
 何もソフトを起動していない筈なのにポップアップしたウィンドウは鮮やかなオレンジのカラーリングで、真ん中に大きく『Under Tricking...Please Wait a Moment!!』と書かれている。ウィンドウからのフォーカスは外せず、操作は一切受け付けてくれない。ウィンドウの下の方に小さく書いてある注意書きを要約すると、こういう具合だ。
『お菓子をくれたら今やってるいたずらはすぐに中止されます! 元に戻したい人は今すぐ下記HPから我々にお菓子を送ってください!』
 試しにリンクをクリックしてみると、Amazonのウィッシュリストに飛ばされた。リストには古今東西の様々なお菓子が並んでいる。中から一つ(蒲焼さん太郎)カートに入れて決済すると、ウィンドウは閉じ、普通に操作出来るようになった。お菓子はあれだけでいいらしい。
「なるほどね」
 最近のランサムウェアは凝ってるな。ハロウィンを模してくるとは。でも、あれだけの技術力があるなら普通に金を振り込ませた方がいいんじゃなかろうか。
 ピーンポーン。インターホンに息子が応答する声が聞こえる。
「どちら様ですか?」
「Amazonウィッシュリスト様からお届け物です」

       

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