Neetel Inside ニートノベル
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 更衣室のカーテンが開くと中には目をそむけたくなるような造形が鎮座していた。胸部、腹部を問わず限界まで引き伸ばされた元生地。あしらわれた刺繍やレースなどの装飾は本来服の艶やかさを際だたせるアクセントのはずだが、中から押し出され糸がほつれ、まるでクリスマスツリーにぶら下がる飾りのようになっている。どうコメントしようか迷っていると肉の塊が口を開いた。
「どう? 似合うかしら?」
「わあ、とってもお似合いですよー!」
 私は必死に両手を叩いて褒めちぎると、目の前の失敗した福笑いのような顔が相好を崩した。
「そう? 私としてはちょっと派手過ぎるかなーとも思ったんだけど……」
 言いながらちらちらこっちを見るな、うっとおしい。大体その服がどうしても着てみたいと言ったのはお前だろう。と、思ってはいてもそんなことはおくびにも出せない。見た目は特撮に出てきそうな怪人だったとしても、この店にとっては大事な太客である。たかだか1店員のぞんざいな接客で気分を害されてはたまらない。
「確かに使いどころは多少選ぶかもしれません。ご希望でしたらより落ちついた色合いのものもご用意出来ますがどうしますか?」
「あらーそうなの? じゃあそっちの方も試してみようかしらー」
「かしこまりました」
 バックヤードから持ってきた服をカーテン越しに渡す。しばらく待つと、更衣室のカーテンが再び開いた。
「どうかしら」
「いや、素晴らしいです! めちゃくちゃ似合ってますよ!」
 全力で口を極めて褒めていた私は、その異様な状態に気付かなかった。
「うーん、私も気に入ってるんだけど、ただちょっとキツい感じもするのよね。ちょっとこれ着たまま歩いて感触確かめてみてもいいかしら?」
「構いませんよ、店内でしたらお好きに歩いていただいて……」
 私は続く言葉を失った。
 彼女は服を着ていなかった。さっきの明らかに似合っていないうちの売り物どころか、何一つ身につけていない、すっぽんぽんのぶよぶよ悪魔がそこにいた。
「お客様!? 急に脱がれてどうされたんですか!」
「は? 脱いでないわよ? 何、似合ってないの?」
「脱いでるじゃないですか! 逆に似合ってると言えますけど!」
「うるさいわねさっきから。もういいわ、これ着てそのまま帰るから。レジ用意して」
 彼女はそう言うと全裸で売り場に向かって歩き始めた。
「お客様!? お待ち、せめて服は着てください! お客様ー!」

       

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