Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 ワイワイ言いながら酒屋のメニューを覗く女子会の面々。何か見つけたのか、一人がメニューを指しながら言った。
「見て、ホッピーだよホッピー」
「ホッピーって何?」
「知らないの? うーん、ノンアルコールビールで焼酎を割って飲むみたいな感じ」
「えー、焼酎あたしきらーい」
「分かるー。芋とか絶対無理、頭痛くなるもん」
「うん、なんかさ、工場で作るから良くないお酒が多いとか聞いたよ? 悪酔いするんじゃないの?」
「やだー! わたしたちお持ち帰りされちゃうー」
 3人が『キャー』とわざとらしい悲鳴を上げる。ホッピーを勧めていた女は軽く鼻を鳴らした。
「はいはい、言ってなさい。私が一人で飲むから。すいませーん……」
 まもなくおかわりが届く。注文した1人がビンからホッピーを注ぐと、3人は興味深そうに泡立つ液体を眺めた。
「すげー。確かに本物のビールみたいだ」
「匂いも一緒だー」
「味は?」
「そんなに気になるなら飲んでみれば?」
 ホッピー女がグラスを渡そうとすると、3人は慌てて首を振った。
「いやいやいや、それはいいわ」
「悪酔いしたくない」
「だからしないってそんなもん。ほらちょっとだけちょっとだけ」
「ああ、駄目、やめて、近付けないで、口に当てないで、匂いが……ああ悪酔いしちゃうぅ!」
「チャプチャプ、僕は悪酔いするホッピーじゃないよ!」
 どこからか聞こえた甲高い声に、ふざけていた4人の動きがピタリと止んだ。
「あんた、今なんか言った?」
「いや、何も……そっちこそなんか言わなかった?」
「私も何も……」
「私も何も言ってないよ!」
「え、じゃあさっきの声なに?」
 気不味い沈黙。それを破るかのように再びあの甲高い声がした。
「僕だよ僕、目の前にあるホッピーだよ! ホッピーはビールじゃないからカロリーも少ないし、アルコール量も調節可能だからむしろ悪酔いしにくいんだ! さあ飲んで!」
 女たち4人は顔を見合わせ、それから1人がやおら机の下に片手を突っ込んだ。ほどなくしてまた甲高い声がした。
「アデデデデ、痛い痛い、やめてやめてやめて……」
 女は無言で腕を引っ張り上げる。手の中には、耳を吊り下げられた男の姿があった。
「何してんの?」
「ホッピーのアフレコを……」
「そうじゃないでしょ? 何してんの?」
「……女子会に……潜入してました……」
「何か言い訳は?」
「ありましぇん……しゅいましぇん……」
 甲高い声にさっきまでの元気はなかった。

       

表紙
Tweet

Neetsha