Neetel Inside ニートノベル
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「えー皆さま、本日はお集まり頂きましてありがとうございます。皆様ご存知のこととは思いますが、まずは状況の再確認をさせていただきます。お手元の資料をご覧ください」
 参加者が一斉に書類をめくる音がした。
「ラジオ体操は老若男女の健康を増進することを目的として戦前の頃より制定され、以来ラジオ番組のみならずテープ再生や出張授業などを通して広く国民に愛されてきました。しかしながら……」
「御託は結構。我々はラジオ体操参加者減少を解決する画期的手法が出来たと聞いたからここに来たんだ。はやくしてくれ」
 参加者の一人がイライラしながら書類で机をぱたぱたと叩く。
「そうですね。では早速本題に入りましょう。チャバシラ委員、お願いできますか」
「分かりました。では皆さん、2つ目の資料をご覧ください」
 座長が呼びかけると、参加者の一人が立ち上がった。
「実は調査の結果、体操に大衆が参加する理由として、体操に関する原始的な快楽が重要であることが分かってきました。そこで我が研究室で開発したのが、このラジオ内臓型ヒューマノイドロボットです。ロボットがお手本を実演し、音楽を流します」
 博士が示したのは、子供のおもちゃのような小型のロボットだった。
「音源が流せるのにラジオ機能もあるのですか?」
 眼鏡の男性が質問すると、委員はにやりと笑った。
「ラジオ機能は受信も可能ですが、メインは送信機能です。私の研究室で、人間の脳波に酷似した特殊な電波を発する機構を開発しました。これにより、このロボットの周囲5km以内の人間に原始的な体操に対する欲求を植えつけます」
「つまり……?」
「これがそばにいると、体操したくてしたくてたまらなくなるということですよ。ほら、したくなってきたでしょう? 我慢しなくていいんですよ、ホラ」
 博士がロボットの背中のボタンを押すと、ロボットがラジオ体操第一の音楽を流しはじめた。
『背伸びの運動からー、はい!』
「なんだこれは……我慢出来ん!」
「身体の抑えが効かん……勝手に動いてしまう!」
 先ほどまで難しい顔をしていた委員たちが立ち上がり、次々に音楽に合わせて腕を振り始めた。
「そうだ、もっと踊れ……もっと、もっとだ! アハハハハハ……」
 数時間後、かけつけた耳栓をした警察の部隊が目にしたものは、疲労困憊しながらジャンプをしている沢山のお偉いさんたちと、狂ったように笑っている一人の学者の姿だった。

       

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