Neetel Inside ニートノベル
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 ノックをしたが返事がない。聞こえていないのかな? 母さんが最近耳が遠くなったみたいだとぼやいていたけど。私はもう一度叩きながら中に向かって呼びかけた。
「おばあちゃん? 入るよー」
 反応なし。そのまま返事を待たずにドアを開けると、こたつの中で丸まっていた背中がビクリと震えて、しわくちゃの顔がこちらを向いた。
「なんだ、ゆうちゃんかい。ノックぐらいおしよ」
「ごめんごめん、ついうっかり」
 おばあちゃんはニコニコ笑いながら隣の座布団をポンポンと叩く。私は頭を掻く仕草をしながらへらへらと笑って、促されるままにこたつに潜り込んだ。
「ゆうちゃんにね、これをあげようと思って呼んだの」
 おばあちゃんはそういうと、脇に置いてあった菓子折りの缶箱を取り出した。缶のメッキは大部分が剥げて錆びついている。おばあちゃんは箱をこたつの上に乗せ、ゆっくりとした手付きで蓋を開けた。
 中には細々とした小物がいくつか入っていた。おばあちゃんはその中から、白い封筒を取り出した。年代物たちの中にあって、その封筒だけはびっくりするぐらい日焼けしておらず、まるでつい昨日文房具屋で買ってきたみたいに見えた。
「これ、大学合格祝いに」
「え、いいよ、そんな大事そうなもの」
「そんな、大事なものなんかじゃないわよ。これはね、へそくりよ、へそくり」
「へそ……?」
 出てきた場所に対してその言葉が予想外だったので、私は一瞬固まってしまった。
「私の父さん、あなたのひいお爺ちゃんはね、私が女学校に上がるのに反対だったの。学費を払ってやらんと言うのね。それで私、喧嘩になって家を追い出されて。そしたら、向かいのおばさんがね、『これじゃ足りんだろうけど、少しでも足しに』といってこれをくれたの。私の分まで、女学校で勉強しておいでって。結局そのあと父さんが折れて学費は払ってもらえたから、使いどころがなくなってしまったのね」
 だから、大学に行くゆうちゃんに、私の分まで、これを使って勉強して欲しいの。そうおばあちゃんは言って私の手に封筒を押し込んだ。私はただびっくりして、封筒を握りしめることしかできなかった。
 部屋から出ると、私は廊下に立って封筒の中身を見た。中には『壱』の文字が書かれたお札が数枚。一万円だ! 私は喜んでお札を掴んで引き出した。
 ヒゲモジャのおっさんの肖像の横には、『壱圓』の文字がしっかりと書かれていた。

       

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