Neetel Inside ニートノベル
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「全く、これだから最近の母親というのはダメなのよ! 私は3人育てたけれど、旅先で子供を泣かして迷惑をかけたことなんて一度もありませんでしたよ!」
「申し訳ありません……本当に申し訳ありません……」
 機内に女性の小言が響き渡るたびに、負けじと赤ん坊が泣き声を張り上げる。母親は顔だけ女性に向けながら我が子を両手でかき抱き、左右に揺すったり声をかけたりしてなだめていた。だが哀しいかな、赤ん坊は泣き止むこともなく、女性の怒りは益々ヒートアップしていく。
「申し訳ありませんじゃないのよ。乗るなら泣かせない、出来ないなら乗らない。そこんところを徹底してもらないと! 赤ちゃんだって可哀想でしょう? こんな飛行機なんかで外に引きずり回して、疲れてむずがるに決まってるじゃないのよ!」
「はい……本当に……すいません……はい……」
 母親は助けを求めるかのように一瞬だけ周囲を見やった。しかし、誰もが気まずそうに目を伏せたり、目の前のスクリーンに興味深い観察対象を見つけたりして視線を逸らす。こんな関わり合いになりたくないのだ。哀れ母親は、女性の気の済むまでサンドバッグにされる運命にあった。
「だいたいね、謝るのなら私だけじゃないでしょ! はっきり言って、この辺りにいる人たち、全員が貴方たちに迷惑してるんだからね! お客さんだけじゃない! 乗務員さんだって困ってるのよ! ほら、貴方も何か言ってやんなさいよ」
「へ? 何がですか?」
 通路を挟んで親子と反対側に座っていた男性は、びっくりした様子でゲーム中のスクリーンから目を上げた。
「ほら、ゲームの邪魔だって、はっきり言ってやりなさいよ。そうしないとこの人たち分からないから」
「あ? あーそうっすね。確かに煩くてクソ邪魔でしたわ」
「でしょう? ホント、子供は飛行機乗らないで欲しいわよね、全く」
「そうっすねー。特に赤の他人に向かって下らないことでガミガミ怒り続ける子供とか、ホント勘弁して欲しいっすわー」
「そうよねー……え?」
 女性の顔から笑顔が消えた。
「いくらナリが大人でも精神的にガキだったら大人しくしてて欲しいですよねー。ねえ皆さん?」
 機内には赤ん坊のぐずる声以外は聞こえてこない。しかし誰の耳にも、機内全体が深く頷く音が聞こえてくるかのようであった。

       

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