Neetel Inside ニートノベル
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昔から女の子になりたくてなりたくて仕方がなかった。女の子がうらやましかった、のだと思う。実際の女性は僕ら男性には分からない色んな苦労を背負っている。そう頭では理解していても、やはり僕の目は理想の女の子に向けられてしまう。
だから、僕がこの電話番号に反応したのは、ある意味で必然だった。
『女の子になりたい人、募集します』
そう上に書き添えられた11ケタの携帯番号は、僕のよく行くラーメン屋のカウンターにある台帳に書かれていた。出会い系か、イタズラか。そう思いながら、つい電話をかけてしまったのは僕が偏執的に女の子になりたかったせいだと思う。
10コールほどして、こんなイタズラに引っ掛かるなんてマヌケだな、やっぱりやめようーーそう思った瞬間に電話から声がした。
『あなた、女の子になりたい人?』
「はい」と答えたのは、ほとんど反射的だったと思う。電話の向こうの女性はクスッ、と笑って『19時に駅裏の公園まで来て』と言った。

公園に着いた僕が見たのは、ライオンだった。いや正確には、ライオンであり女性であった、と言うべきかもしれない。それは全く不思議な感覚で、どう表現したらいいのか未だに分からない。
彼女(と便宜的に呼ぶが)は肉食的な笑みを浮かべながら僕を見上げると、「あら、やっぱり女の子になりたいのは男の子だったのね」と言った。
僕は何も言えなかった。それはライオンとしての彼女に畏怖していたからでもあるし、女の子としての彼女が魅力的に過ぎたからでもあった。
次の瞬間、彼女は僕に飛びかかった。いや、キスされただけなのかもしれない。それは半分ずつ混ざりあって、僕の認識を形成していた。僕が最後に見たのは、公園から四足で走り去る彼女の姿だった。その時、彼女は明らかにライオンであり、女の子ではなくなっていた。
僕は自分の手を見た。それは依然として男の子の手だったが、同時に女の子の手でもあった。僕は男の子であり、女の子でもある存在に変化していた。

それからどのようにして公園を出発したのか覚えがない。気が付くと、僕はさっきのラーメン屋のカウンターに座っていた。カウンターにはあの台帳が置いてある。迷信と馬鹿にするにはその夜の出来事はリアリティがありすぎたし、そこに書き込むのは、酷く自然な行為に思えた。僕はボールペンを取り上げると、新しいページに携帯番号と共にそれを書き記した。
『男の子になりたい人、募集します』

       

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