Neetel Inside ニートノベル
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「それでは、今日は兄弟について、を書いてきましょう。明日の授業で、隣の人と作文の交換をして、意見交流をします」
そう言いながら、ナカガワ先生がいつもの宿題用の原稿用紙を配り始める。僕は手を上げた。
「どうしたの、カワモト君?」
先生はいつもの鈴を転がすような声で答える。
「僕、兄弟いませんけど」
先生は目をぱちくりさせた。数秒ほどの沈黙があって、先生が声を上げた。
「ああ! そうだったね、ごめんなさい。カワモト君はね、おうちでよく遊ぶものについて書いてきてくれるかな」
「よく遊ぶもの?」
「そう。何でもいいよ? ぬいぐるみとか、ゲームとか。読んだ本の感想でもいいし、おうちのペットの話でもおっけー」
「えーカワモト君ずるい」「僕も楽しいこと書きたいー」
教室のここそこから文句の声が上がる。僕はそれを聞きながら、ああ、このクラスで兄弟がいないのは本当に僕だけなんだな、とぼんやり考えていた。

僕の家は普通と違う。それに気付いたのは小学校に上がった頃だった。
皆は兄弟が沢山いる。お兄さんにお姉さん、弟、妹、皆少なくとも一人はいるらしい。僕にはいない。そういうのを一人っ子と言うんだって、先生に教えてもらった。
お父さんやお母さんも皆とは違う。僕のお父さんとお母さんは夫婦だから、とても仲がいい。いつだって一緒にいる。でも、皆のお父さんお母さんは結婚はしていない。「親の仕事」の「どうりょう」なのだそうだ。仲には結婚してる人もいるらしいけど、うちのお父さんが言うには、それは「しょくば結婚」という奴で、うちとはちょっと違うらしい。
僕んちは結構変わっている。それで不便に思ったり、苛められたりすることはないけれど、今日みたいにふとした時に、僕だけが違っている、ということが突き付けられると、なんだかちょっと変な気分になる。
結局僕は家で飼っているデコ助のことを書いた。僕が2Bの鉛筆でガリガリやっているといつものようにデコ助がやってきて、俺の首筋も掻いてくれと寝転がった。のん気な奴だ。

翌日、隣のクロダ君と作文を交換した。クロダ君は妹との喧嘩の話を書いていた。仲直りは早めにした方がいいよ、と言うと、クロダ君は頭を掻いて、アイツ猫みたいに気まぐれなんだよ、と言った。
「話し合えるだけマシだよ」
「それもそうか。でも話が出来ないなら喧嘩もしねえぜ」
「それもそうだね」
そこで急になんだかおかしくなって、二人でずっと笑っていた。

       

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