Neetel Inside ニートノベル
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「見つけたぞ!」
私は声を上げた。発掘調査の目玉である、「魔導図書館」に収められていた大量の陶片を手に入れたのだ。これで文献調査が捗るだろう。私はたまらず指笛を吹いた。

発掘品を持ち帰ると宿の机の上に並べ、手元に自作の辞書を引き寄せ、首っ引きで文章を訳出していく。
陶片に記されているのは、どうやら何かの詩のようなものだった。真理を追及する学者の内面を率直に綴った内容のようだ。形式ばった韻文の形態ではあったが、それは微に入り細に入り、克明に学者の興奮を、葛藤を、苦悩を、そして後悔を描写していた。
後悔?
そう、陶片の最後は、学者の後悔と懺悔で埋められていた。知識を紐解いたことに対する反省である。肝心の紐解かれた知識の部分の記述は、巧妙に削り取られ、なくなっていた。
ーー知りたい。
ざわり、と私の中の何かが動いた。隠された知識が知りたくてたまらなかった。基本的に知識欲によってここまでドリブンされてきた私であるが、これほど強烈な欲求を内部から感じたのは始めてだった。
気がつけば、私は訳文を書く手を止められなくなっていた。書けば書くほど、知識の欲求は増していく。加えて、訳を終えるたびに、奇妙な快感が頭の先から走り抜けるのを感じていた。脳の辛うじて冷静な部分は警告を発していたが、私はやめなかった。辞められない。辞められるわけがない。
気がつけば私の下着は白くべたべたしたもので汚れていた。

私は一人で発掘現場に戻り、調査を再開した。とにかく早く知識の根幹が知りたくてならなかった。一人で黙々と掘り続けたが、掘っても掘っても、陶片どころか石ころ一つ出てこなかった。
それでも掘る手は止まらなかった。直感が、ここに知りたいことは眠っている、と告げていた。穴の中から知識が私のことを呼んでいる、という感覚もあった。ならば、何故その知識は私の前に姿を見せないのだろう。
何かやり方が間違っているのだろうか? 私はスコップを投げ出した。穴の中に手を突っ込み、素手で土を触ってみる。呼ぶ声が強くなった気がした。間違いない。彼はここにいる。ここで私が来るのを待っているのだ。
手で穴を掘り、幅を広げていく。相変わらず何も出てはこなかったが、私はもう理解していた。出てこないなら、私がそちらへ行けばいいのだ。知識の海にダイブし、知識と一体になってこそ、真に本当の知識が得られるのだ。
私は頭を穴に突っ込み、そのまま穴の中へと飛び込んだ。

       

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