Neetel Inside ニートノベル
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 伯父がくれたそのサイコロは、見るからに年代物らしき風格を漂わせているのに、ほとんど汚れがなく、綺麗に手入れされていた。
サイコロを居間で弄んでいると、足元にショコラが寄ってきた。適当に追い払おうとして手を上げたら、手のひらからサイコロが溢れ落ちた。あっと思う間もなく、サイコロはショコラの口に放り込まれていった。ゴクリ、という嚥下の音が聞こえた気がした。ゴクリじゃねえよ。やってしまった。
 時間が時間なので行きつけの動物病院は閉まっている。なんとか吐かせたいのだが、我が家は揃いも揃って不器用ばかりで、そういうスキルを持っている人がいないのである。もっとも、器用ならうっかりでサイコロを猫の口に放り込んだりはしないだろうが。
 ショコラは喉がつまって苦しいのか、床をゴロゴロ転がっている。ひとまず両親に相談を……と思っていたら、急に外から凄い音がする。仰向けになったショコラを置いて窓を見ると滝の下にワープでもしたのかというような大雨である。ちょっと前まで雲一つなかったんだが、と思って外を見ていると、豪雨は突然ピタリと止んだ。みるみる空が晴れて、夏の大三角が顔を出す。と思ったら今度は白いひらひらしたものが降り始めた。夏の大三角を背景に天気雪は尋常ではない。
 実は先ほどから、ショコラの身体の向きが外の天気に対応していることには気付いていた。非科学的なことだが、あのサイコロが関係してると見て間違いないだろう。不味いことになってきた。
 サイコロに書かれていた言葉はなんだったか。うち2つの面はそれぞれsunny,rainyだった筈だ。伯父いわくラテン語らしいが、かなり疑わしい。ていうか運勢じゃなくて天気じゃないか。曇りや雪があること考えると、cloudy,snowyもありそうだ。残りが分からないが、ロクなものじゃない気がする。
 ショコラが寝転がったりしないようにあやしながら伯父に連絡を取ろうと携帯を探るが、ショコラは俺の手をするりとすり抜けた。頭を下にして自由落下。次の瞬間、ショコラは凄まじいくしゃみをした。同時に外でも凄い風が吹く音がした。ショコラはそのまま床に着地して、それまでの苦悶が嘘のように軽やかに走り去っていった。俺は床に残されたサイコロの「microburst」という文字を見ながら、電話の向こうの呑気な「もしもし?」という声を聞いていた。

       

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