Neetel Inside ニートノベル
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 この御園町は、空前のUFOブームに湧いている。郊外のすずめが丘に、UFOが定期的に現れるようになったからだ。お蔭で日本中から大量のUFO見物客が毎日山のようにやってくる。
 もっとも一般住民はどうかというと、最初の頃こそもの珍しさにはしゃぎ回ったものの、今ではほとんどの住民は完全に興味を失っていた。今では喜んでいるのは、観光資源が出来た町役場の人たちと、見物客の落とすお金を当てにしている商店街のおっさんおばさん達ぐらいである。
 ……と、もう一人いたな、と光輝は思った。
「何してんの。置いてくよー!」
「お前が、飛ばしすぎなんだろ……」
 ゼーハー息をつきながら、光輝は坂の上を見上げた。花梨は振り返り、仁王立ちして光輝に手招きしている。
「今日こそはUFOに乗り込むわよ! なんたって、これで10回目のチャレンジだからね!」
「そのセリフも10回目だな」
「はーい、お子様はちょっと黙ってようかー」
「うおっ、ちょまっ、あああギブギブギブ!」
「オラッ、オラッ反省したか」
「反省した、したから離し……て……」
 光輝の軽口を予想していたかのような機敏な動き。首に巻き付いたしなやかな腕は細いのにも関わらず凄まじい力である。タップはギブアップの意味なんだぜ……そう思っているうちに、光輝は意識を失った。

 光輝が気がつくと、顔の上にタオルがかかっていた。起き上がるとガサリという音。どうやらブルーシートの上に転がされていたらしい。
「ねえ」
 振り向くと、真横に花梨がしゃがんでいた。
「なんだよ」
 光輝はわざとぶっきらぼうに答えた。彼は締め落としをまだ許していなかった。
「UFOにさ、もし本当に乗り込めたら、どうする?」
「どうするって、俺は別に乗り込めなくてもいいけど」
「答えてよ。もしUFOが目の前に降りてきて、あたしが乗り込んでいったらさ」
 花梨の目は、やけに真剣な光を放っていた。
「ついてくよ」
 そう、思わず口にしていた。花梨の目が見開かれる。急に照れくさくなり、花梨が何かを言う前に付け加える。
「どうせ俺が拒否しても、無理やり拉致るんだろ? さっきみたいに締め落としてな」
「げ。根に持たれている」
「持たん方がどうかしとるわ!」
花梨の目から、あの光はなくなっていた。
「よっし、合格! 流石は私の幼馴染だね」
何なんだ、まったく。上機嫌で観測の準備を始める花梨を見ながら、光輝は心の中で幼馴染に不合格を押した。

       

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