Neetel Inside ニートノベル
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「フォークロアって知ってるかい?」
「日本語だと都市伝説、かな。そうそう、口裂け女とか有名だよね」
「フフフ、君は今、分かった気になった。フォークロアがどんなものか。そうだよね?」
「だけど、僕の考えるところでは、フォークロアはそんなに単純なものじゃない」
「日本語って、そういうものだろ? 例えば旅館とホテルと宿の違い、君は簡潔に説明出来るかい?」
「言葉、間取り、内装、サービス……色々違うところはあるけれど、それら全てを総称出来る適切な言葉を見つけるのは簡単じゃない。それと同じさ」
「話を戻そうか。フォークロアとはどんな存在なのか? だったね」
「フォークロアは都市伝説だ。それは間違いない。そして都市伝説は、基本的に想像上の存在に過ぎない。それは確かだ」
「けれど同時に、フォークロアは現実でもあるんだよ。あ、笑ったね? いいよ、説明を聞けば君も納得するはずだから」
「フォークロアというのは、実在することが前提になっている。実在はしないんだけど、話を聞く者が『実在する』という幻想を共有していないと成立しないんだ」
「逆にそうした共同幻想を失うと、フォークロアはフォークロアとしては死ぬ。ただの昔流行ったちょっと怖い話ぐらいの扱いになってしまうんだ」
「つまり、フォークロアは現実には存在しないけど、同時に現実に存在している。ちょっと気取った言い方をするなら、現実と想像の重ね合わせの中にある、と言い換えてもいい」
「さて、ここからが本題だよ。例えば、だけどさ……もし僕が、フォークロア上の存在だったとしたら、どうする?」
「なるほど、僕がフォークロアでないことは君が保証してくれるというわけだ。では僕も問おう。君がフォークロアでないことは一体どこの誰が保証してくれるというんだい?」
「ハハハ、冗談だよ。でもね、僕は時々思うんだ……」
「もし本当に、フォークロアが現実と想像の狭間にあるものならば」
「僕らの世界に想像が混じっていけば、僕らとフォークロアとを隔てるものはどうなっていくと思う?」
「ねえ、教えてくれよ。僕らは本当にこの世界に存在しているのかな? 世界3分前仮説を取るまでもなく、僕らがフォークロアでないと……君は確信出来るかい?」

       

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