Neetel Inside ニートノベル
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日替わり小説
3/3〜3/9

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 生徒会長というのは根本的に貧乏くじである。学業に何の関係もない雑務ばかり。毎日文化祭準備させられているようなものだ、と佳織は思う。生徒会長が有能である必要など全くない。少なくとも佳織は優秀とは程遠かった。
「おやおや溜息ですか。らしくないですね」
 軽口を叩きながら生徒会室に入ってきたのは、副会長向田勇だ。佳織とは幼稚園の頃からの間柄で、誰にでも人当たりがよく、文武両道、人好きのする端正な甘いマスク、まさに絵に描いたような優秀者である。どういうわけか、気付くと佳織のそばにいることが多い。佳織が生徒会選挙に立候補することになったときも、いつの間にか副会長に立候補していた。どうせやるなら自分の代わりに生徒会長をやってくれと言ったのだが、勇は「佳織は会長です」とにべもなかった。
「申請書の承認は終わりましたか、佳織?」
「会長様と呼べ。手伝う権利をやるぞ」
「仰せのままに、会長様」
 どこまでも慇懃な態度の勇に、佳織はフンと鼻を鳴らした。勇はいつもこうなのだ。自分よりも圧倒的に優れているのに、こうしていつも3歩後ろに下がって付き従っている。そのくせどんな無茶でも平然とこなしてみせるので、最近は本当に必要な無茶振り以外はしないようにしていた。
「なんで私なの?」
 うっかりそう口にしていた。勇がこちらを見たのが分かる。しまった、封印して墓場まで持っていこうと思っていたのに、という想いと、この際だ全部ぶちかませという想いが頭の中で交錯する。
「なんで、どうしてこんなによくしてくれるの。私は馬鹿だし、人付き合いも悪いし、可愛くないし、あんたに相応しい人なら、もっと他に……私と一緒にいると、あんたまで駄目になっちゃう……!」
 途中からはほとんど悲鳴になっていた。
「佳織じゃなきゃ駄目ですよ」
 静かな声に気圧されて佳織はおし黙った。
「佳織じゃなくちゃ駄目なんです。理由なんて分かりません。僕の横に佳織がいる。僕が佳織を支える。その事実が重要なんです。逆じゃ駄目です。離れ離れはもっと駄目です」
 勇の怒り。それは幼馴染の佳織だけ分かるような、ほんの微かな感情の発露だった。気不味い沈黙が場に流れた。
「何か、その、ごめん。変なこと言って」
 やっと、それだけを佳織は口にした。穴があったら入りたい、と思った。
「構いませんよ」
 勇は柔らかく笑った。
「いつものことですから」
 これだからイヤなんだ、と佳織は思った。

       

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