Neetel Inside ニートノベル
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 隣の席の天さんは、いつも変なことばかり言う。基本的にはウケを狙ったボケだと思って適当に相手するのだが、本人は至って真面目な顔をしており、適当にあしらわれると不満そうな顔を浮べる。今日はこんな感じだった。
「ミハル、俺は子供の頃にあった事実を改変することが出来るんだ。凄いだろ?」
「へー、そうなんですか。それは凄いですね」
「おい、いい加減信用しろ、俺の言うことを。いいか、こうして目を瞑って瞑想をするとだな……」
 聞いてもいないのに実践を始める天さん。まだ業務時間中だっつーの。
「天さん、目閉じてると危ないですよ」
 当然だが、やんわりとした注意を聞き入れてくれるような人ではない。
「ほら来た、来たぞ、目の前に小学校時代の自分が見えるんだ。見えるか?」
「見えませんよ。見えるわけないでしょう」
「この小学生の自分の頭の中に入り込むんだ。頭に乗る感じで行くといい。うまく勢いをつけて踏んづけないと途中で引っ掛かっちゃうから気をつけるんだぞ」
 この状態になると天さんはもう止まらない。私に出来るのは適当に話を合わせて早く元に戻ってくれるのを願うだけだ。あとで課長に怒られるのは私だから困るんだけどな。
「どうだ、こうして小学生時代の自分の身体に入ることで、小学生時代に物理的に干渉することが出来るんだ。例えば」
 そういうと天さんは空中に何か書く真似を始めた。
「30年前にあっただろ? 列車と自動車の多重衝突事故が。自動車のエンストは止めようがないから、鉄道会社に爆破予告の手紙を書くんだ。車両点検でもしてくれれば運行が遅れて事故は起きないってわけ」
「衝突事故は覚えてますよ。ABSが整備不良で壊れてたとかなんとかで、この間和解が成立してましたよね」
「そう! こうやって起きてしまった事故を未然に防ぐことで俺は世界の平和を守っているのだ。よし、投函したぞ」
 天さんがやっと目を開けた。妄想タイム終了の合図だ。ホント、ちゃんと仕事してくれれば優秀なんだけどな。微かに溜息をつくと、天さんがニヤニヤしながら私に聞いた。
「どうだ?」
「何がです?」
「30年前の列車衝突事故だよ。なくなったろ?」
「何の話をしてるんですか? そんな事故記憶にありませんけど」
 だから、こういう妄想を勘弁して欲しいと言っているのに……。
「そうだろう、それでいいんだ」
 天さんは満足そうな顔で頷いている。いいから早く仕事に戻って欲しい。

       

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