Neetel Inside ニートノベル
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 ピッ、という鋭いホイッスル音と共に、エアロックが一斉に開いて先輩たちが飛び出していく。僕も次に続くべく、前の先輩が出ていって無人になったエアロックに入った。EVAの中でもフリースタイル50mはスタートが肝心だ。ロックの扉を開くギリギリで保持し、スタート態勢を取る。
 先ほどと同じホイッスル音がヘルメット内のスピーカーを通して響く。顧問の先生がプールの真ん中からリモートで鳴らしているのだ。僕がドアを開くと、2コースの彼女は既にエアロックから外に出ていた。早い。負けじと僕もプールの中へ飛び出した。

「おっと、もう時間か。今日はここまで、各自宇宙服を片付けて上がるように」
 顧問の声で、めいめいがヘルメットを脱いで更衣室へと向かい始める。僕はちらっと後ろを見やった。
 彼女はちょうど宇宙服の上半身を脱いだところだった。手伝ってもらった一年生から服を受け取って、エアーで洗浄を始めている。恐らく十何年とやってきたのだろう手慣れた動きだ。一瞬目が合いそうになって、慌てて顔を逸らした。やべえ、顔赤くなってないかな?
 EVA部に入部してから3ヶ月。高校から始める奴が多いとはいえ、高校2年の秋からという奴は少ない。おかげで同級生の奴らに追いつくのに苦労した。彼女は、僕が追いつけていない唯一の同学年だ。部内でも並び立つ者のいない孤高のエース。それが宮嶋京花という存在だった。

 彼女のことを初めて知った時のことを思い出す。友人の告白現場に隠れていた僕は、冷やかすどころか現れた彼女を見て一気にのぼせ上がってしまった。彼女の為ならなんでも出来ると思った。文字通り、何でも。友人が何と言って告白したかはもう忘れてしまったが、彼女の答えだけははっきりと記憶した。
「ごめんね、ワタシのイチバンは、EVAなの。今は、他の人やコトをイチバンに考えるのは、無理だと思う」
 その瞬間に、僕はEVA部に入る事を決意した。彼女がEVAをイチバンに考えるのならば、僕はEVAでイチバンを目指す。EVAで成果を出す時だけは、彼女の視界に入っていられるから。そして、彼女に追い付き、そして追い抜く。そうすれば、いつか彼女が振り向いて……くれないかな。いや、駄目で元々、気にするな。
 僕はいつものように顧問の先生に居残り練習を願い出た。結果を出さない限り、この冬は、まだ終われない。

       

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