Neetel Inside ニートノベル
表紙

日替わり小説
3/10〜3/16

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 後ろ手に拘束され、床に転がされながらも、俺は今モーレツに興奮していた。目の前には腕組みして座る長髪の男。その脇にひっつめ三角メガネにスーツをピシリと着込んだ女が手にファイルを携えて直立不動で立っている。
 男が口を開いた。
「何をしに来た?」
「教えると思うか? ガフッ」
 男が右手を振ると、女がツカツカと寄って来て俺の腹を蹴り上げた。なんてお手本通りの反応だ。凄まじい衝撃に身体が一瞬浮いて、再び地面に叩きつけられる。二度目の呻き声は息が詰まって出てこなかった。
「何、教えて貰えるまでこうするだけだ」
 男のセリフ、仕草の一つ一つがいちいち俺を刺激する。痛みで引きかけていた興奮が戻ってきていた。何か反論しようとしたが咳こんで上手く言えなかった。仕方がないのでニヤニヤ笑いで返す。もう一度無言の蹴りが腹に刺さった。
「何がそんなにおかしい?」
 男のイライラが伝わってくる。尋問が進めば進むほど楽しくて仕方がない。今のセリフも完璧だ。これ以上は隠すのは不可能だろう。もう少し我慢する予定だったが、全部ブチまけてしまうことにした。
「おかしいに決まってるでしょ、こんなセリフ聞かされてこんなことされたら」
「……なんだと?」
「ほらまたテンプレ発言。仕草も、恰好も、やることなすこと全部テンプレ。面白すぎでしょ」
「まだ蹴られたいようだな」
 女はもう指示するまでもなく俺の身体サッカーボールのように蹴り回している。痛いことこの上なかったが、それよりも全部ブチまける愉悦の方が勝った。二人の目に俺はさぞかし気持ち悪く映っていることだろう。
「いくら蹴られても何も出てこねえよ。俺はこの尋問を体験するために来ただけだからな」
「は?」
 流石に男が呆れ顔を見せた。女も蹴りの足が止まっている。痛みに顔をしかめつつ笑みを絶やさぬよう注意して俺は続けた。
「だからさー、体験尋問だよ体験尋問。俺スパイ映画やヤクザドラマ大好きでさ、こういう地下組織の非合法な尋問シーンが特に好きなの。だから、ちょっと中入って勿体ぶれば敵対組織の手先と勘違いして色々してくれるんじゃないかなって思って……ハッハッハッ、大当たりだったわ、アッハッハッハッヒャ」
 途中からもう笑いが止まらなかった。男と女が得体の知れない物を見つけたような目つきでこちらを眺めているのを自覚しながら、俺は気が狂ったように笑い続けた。

       

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