Neetel Inside ニートノベル
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「なあ、いい加減に吐いたらどうだ? 証拠はもう全部挙がってるんだ」
「もう3日も何も食ってないのに何を吐けっていうんですか? 何もやましいことはしちゃいません」
鯖升はニヤリと笑ってつぶやいた。無精髭と角張った顔からは少し疲れが見えるが、ギラギラと光る目はLEDランプにも似て精力的だ。
「食ってないのはお前の勝手だろ。こっちはちゃんと食事を出してるし、風呂だって用意してやってる」
「飯なんて食えませんよ。何が盛られてるか分かりませんしね」
「何も盛りゃしねえよ。圧倒的優位の俺達がなんでお前みたいなこそ泥に薬なぞ盛らにゃならん」
「人生万事、警戒するに如くはなし、ですよ刑事さん」
鯖升がウィンクする。鹿島は吐く真似をした。
鯖升が逮捕されたのは3日前。さる企業のデータセンターに侵入していたところを現行犯で捕まった。現場からはサーバの筐体が1台消えており、窃盗容疑で再逮捕。しかしサーバの行方は杳として知れない。鯖升の供述も要領を得ないため、こうして勾留期間を延長して取り調べをしているのだ。
そもそも盗品がなくなって犯人が現場にいた、というのがおかしいと言えばおかしい。おかしいと言えばわざわざデータセンターからサーバマシンを盗んだということ自体も変だ。しかも鯖升の経歴がさっぱり掴めない。まるでこの世にいない人のようだった。
「もう一度聞くぞ。あの日なんであの場所に居た」
「気がついたらいたんですよ」
「ふざけるなよ。サーバを盗みに入ったんだろ」
「盗んでなんかいませんって。もう戻してくださいよ」
「サーバの場所を言うまではこちらとしても釈放するわけにいかん」
「それはよくご存知のはずですよ」
「俺はお前と遊んでるわけじゃないんだよ」
「僕だって遊んでるわけじゃありません」
「もういい、また明日だ」
鹿島は諦めて取調を切り上げた。後ろから声が聞こえる。
「刑事さーん。もうそろそろ限界なんです。頼むから出してくださいよー」
「お前が言うことにちゃんと答えてくれたら出してやるよ」
鹿島は後ろ向きにひらひらと手を振って部屋を出た。それが鹿島が鯖升の姿を見た最後になった。
翌日、留置場からの報告に警察署は大騒ぎになった。鯖升が脱獄したのだ。見張りも気付かなかったどころか、脱出の痕跡も何も残さず忽然と消えたのだ。指名手配がかかったが、目撃報告が挙がることはなかった。
個室の中にはなんと盗難品のサーバマシンが残されていたと言う。

       

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