Neetel Inside ニートノベル
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 小説家は画面を見て頭を抱えていた。画面には1000字ほどの文章が写し出されている。
「ダメだ俺は……俺は終わってしまったんだ……」
 目は未だ画面に向けられているものの、その目は文章を追ってはおらず、ぼんやりと瞳孔が開いている。横に置かれたケータイからは担当の心配そうな声が流れてくるが、それに反応する余裕もないようだ。

 それは、人工知能が小説の新人賞の一次選考に通過したというニュースだった。貼付されていた小説を読んだ小説家は呆然とした。それが彼の書いたものよりも圧倒的に面白かったからである。
 過不足のない文章表現。二つのテーマの取り合わせの妙。冒頭から仕掛けられた叙述トリック。そしてそれらを全て取り合わせて対応する綺麗なオチ。それらは小説家が、担当編集者から常に弱いと指摘され続けてきたものだった。
 この新人賞には当然彼も自作を応募していたが、いずれも一次選考は突破出来ていなかった。彼の主観のみならず、客観的に判断して、彼の小説は人工知能の小説以下だと断定されたことになる。
 とはいえ、それだけでは彼の絶望を説明し切れない。持ち込みを通じて担当編集者をつけてもらったとはいえ、彼自身の作品が賞を取ったり、雑誌に発表されたり、まして単行本となって書店に並んだりしているわけではないのだ。その意味では彼はまだ真に「小説家」であるわけではない、いわばセミプロとアマチュアの中間みたいな存在であった。
 それでも彼がここまで衝撃を受けているのは、単に「人工知能の書いた小説が、自分の書いた小説よりも優れていたから」ではない。彼の頭には、プレスリリースの中のある言葉がぐるぐると回っていた。
『人工知能に特定のテーマを与え、文章を学習させた上で得られた出力を基に文章を構成し、体裁を整えて新人賞に提出いたしました云々』
 それは、「人工知能が書いた小説」に対する人間の作業量を示していた。提出されたものは、100%人工知能だけによって書かれたものではない。むしろ、人間の関与の割合が高いとすら言えるーーそう書かれていたのである。
 それは、つまり。
「俺の小説家としての能力が理系の研究者のおっさんと同レベルだってことじゃねえかよ……」
 小説家の呻き声は、幸か不幸か、編集者の耳には届かなかった。

       

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