Neetel Inside ニートノベル
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「本当にこんなところにいるのか? そのスゴ腕の復讐引受人ってのがよ」
「間違いねえ、俺の調べた限りじゃあそこの寺が根城だって話だ」
 歩く道には薄明かりが木立を通して陰を落としている。この先の古寺は、地元じゃあ幽霊や化け物が出るともっぱらの噂だ。大の大人といえ、好きこのんで来るような場所ではない。それでも二人が行くのは、ある女への復讐の為だった。

 突然耶蘇吉が歩みを止めた。振り返り、唇に手を当てながら為五郎に手招きする。為五郎が前へ出ると、木立の隙間から二人の人影が見えた。一人は女のようで、樹の幹に手をつき、腰を後ろに突き出している。もう一人はその腰を両の手でしっかと掴み、ゆっくりと前後に自分の腰を動かしていた。耳を澄ませば、僅かに女の喘ぎ声も聞こえる。
 誰がどう見ても、男と女の逢引現場に相違なかった。

「あれだよ」
 と耶蘇吉が呟いた。
「奴だ。あの後ろから女を犯してる奴が例の復讐代行人だ」
「おいおい、おめえを信用しねえワケじゃねえが、こんなうらぶれたところで青姦するような奴が復讐代行だって? 冗談だろう」
 為五郎がそう言うと、耶蘇吉はかぶりを振った。
「いや、奴はただの復讐代行人じゃねえ。見ろ、相手の女は一人じゃねえ……まだ宵の口だってのに、もうあれだけの人数をやっちまったんだ」
 見れば、男の足元には着物がはだけた女が5、6人も倒れている。時折ピクリと動く以外はみじろぎもしていない。
「これこそが、奴の復讐方法なんだよ。流浪の『犯し屋』……それが奴の本性だ」
「お菓子屋? 饅頭や羊羹で復讐をやってくれるってのかい」
「馬鹿、そのお菓子じゃねえ。女をコマすって意味の『犯し』よ。なんでも、赤子だろうと山姥だろうと、ホトさえあれば間違いなく犯して孕ませるんだそうだ」
 為五郎の茶化しを無視して耶蘇吉は続けた。
「ある時は恋心を弄ばれた復讐に身籠らせて全てを台無しにする為、またある時は種なしの当主の代わりに継嗣を産ませる為、一度犯せば百発百中……ついた仇名が」
 耶蘇吉は首筋に冷たいものを感じ取り突然押し黙った。いつの間にか目の前のまぐわっていた二人のうち、男の姿は消えており、女だけが樹の根本に崩れ落ちている。背後に何者かの気配があった。静かな、それでいて何人をも萎縮させるような底冷えのする低い声が響く。
「いかにも拙者が『犯し屋』だ……『子作り狼』とも呼ばれている。用件を聞こう」

       

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