Neetel Inside ニートノベル
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 昔むかし、ずーっとむかし、ある村に、じさまとばさまが住んでおったそうな。
 じさまは山でしばかりをしておったが、ある時から腰を悪くしてずっと寝込むようになった。ばさまはじさまの介護をしながら、毎日洗濯や料理の家事をこなし、じさまが出来なくなったしばかりまでするようになったと。
 そんなある日のこと、ばさまが川で洗濯をしておると、川上からどんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れてきた。その桃の中から玉のような赤ん坊が産まれたからさあ大変。介護と家事で手一杯のばさまは赤ん坊を育ててくれる家を探したんじゃが、鬼が暴れ回ってそこいらじゅうを荒らし回るこのご時世にそんな余裕のある家があるはずもない。結局、赤ん坊を桃太郎と名付け、じさまと一緒に育てることにしたと。
 桃太郎はすくすくと成長していったが、じさまの腰は一向に良くならん。桃太郎はあっという間に大人になったから、そんなに手間がかかることもなかったが、それでも子育ては子育て。じさまの介護まで含めると、年取った女手にはやはり大変だったのじゃろう。桃太郎が元服する頃には、ばさまの目は落ち窪み、頭の毛もまともには結われんようになって、見た目はまるで山姥同然。じさまとどっちが病人か分からんほどであったと。
 さて大人になった桃太郎と言えば、じさまとばさまの献身的な教育が実を結んだか、大層優しくて気立てのよい丈夫になった。となれば、是非とも鬼退治に行って欲しいというのが皆の正直なところ。しかし桃太郎は首を縦に振らんかった。鬱病のばさまと寝たきりのじさまを残して鬼ヶ島には行けんと言うんじゃな。とはいえ事は村の一大事。村の衆は相談した結果、ばさまとじさまに桃太郎を説得するように頼むことにした。
「桃太郎はじさまとばさまが気になって鬼退治に行けんいうがじゃ。けんど、鬼ヶ島に乗り込めるほどの男は桃太郎しかおらん。ばさま、なんとかしてけれ」
「分かった。じっちゃとわしとで、上手くやるすけ」
 ばさまはあっさり頼みをきいた。しかし翌日、村の衆は自分たちのしてしまったことに否が応でも気付かされることになった。
 二人は心中してしまった。じさまは胸を包丁で突かれて、ばさまは梁で首を吊って死んでおったそうな。じさまの枕元には、「老い先短い二人はここで死ぬので、桃太郎は後腐れなく鬼退治に行くように」と書かれておったと。

       

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